ヒメツバキ属の樹木(その1)
1.ヒメツバキ属の区分
ヒメツバキ属
Schimaは
ツバキ科(
Theaceae)の常緑の低木ないし高木で、ヒマラヤから東方の東南アジア地域、支那南部、海南島、マレー諸島、フィリピン、台湾にわたって分布し、わが国の領域にも琉球諸島の
イジュ、小笠原島の
ヒメツバキとして存
在している。これらは形態的にかなり違っているものがあるが、その形質の変動が多くまた連続していて分類・識別がきわめて難しい1群である。それ故20種程度あるいはそれ以上の種にわける考えもあるが、BLOEMBERGENはすべてを1種とし、ただ地域的
に分布が違う亜種(subspecies)とそれらの変種にわける分類を提示している。なお亜種にも区分しないでただの1種にしてしまう見解もある。ここではおおよそ
BLOEMBERGENの亜種区分に従い、おもなものを次のように整理する。
(1)基本型・
Schima wallichii KORTHALS subsp.wallichii:ヒマラヤ、インド東部、バングラディッシュ、ビルマ、タイ、雲南、四川に分布する。
(2)
Schima wallichii KORTHALS subsp.noronhae BLOEMBERGEN:ビルマ、タイ、インドシナ、マレー半島、スマトラ、ボルネオ、フィリピン、支那南部、台湾、琉球と最も広く分布する。和名
イジュ。
(3)
Schima wallichii KORTHALS subup.noronhae BLOEMBERGEN var kankoensis(HAYATA):台湾南部に個有。和名
シマヒメツバキ。
(4)
Schima wallichii KORTHALS subup.mertensiana BLOEMBERGEN:小笠原島個有。和名
ヒメツバキ。
(5)
Schima wallichii KORTHALS subsp.breuifolia BLOEMBERGEN:ボルネオ産。
2.イジュの名称
ここでは
イジュを東南アジア地域に広く見られる
Schima wallichii KORTHALS subsp.noronhae BLOEMBERGENのうちに含め、その分布区域の最北端に現われるものとした。この扱いによると次のような異名があげられる。
Schima noronhae
REINWARDT、Schima superba GARDNER et CHAMPION、Schima wallichii KORTHALS subsp.superba BLOEMBERGEN、Schima crenata KORTHALS、Schima wallichii KORTHALS subsp.crenata BLOEMBERGEN、Schima confertiflora MERRILL、Schima linkiuensis
NAKAI、Schima wallichii KORTHALS subsp.liukiuensis
BLOEMBERGENなど。分布は前節にあげたが、わが国で
イジュといわれるものは奄美大島以南の琉球に自生し、ときに造林も試みられている。
イジュの名の由来については樹皮がサポニンを含み魚毒になるので、これを川に流して魚(沖縄の昔の名
イジュ)
をとることからきているとの説がある。当て字に伊集、伊樹があてられることがある。
イジュは琉球ではよく知られた樹で、復帰以前の琉球政府が、1962年に発行した花切手シリーズの1つの8¢切手に
取りあげられている。また次の琉球歌謡がある。
「伊集の木の花やあんきょら咲きゆりわぬも伊集のごと真白(ましら)咲かな」。
この亜種を前記のように広く分布するものとすると、各地の名称に次のものがあげられる。台湾産のものに対して和名
タイワンヒメツバキ、中国で
木荷、南洋木荷、荷樹、台湾で
木荷、荷樹、英名
Chinese guger
tree、ビルマで
laukyo、thitya、タイで
mang tan、インドシナで
tro、マレーで
medang gatal、geggatal、インドネシアで
puspa、seruなどという。
なお
シマヒメツバキSchima wallichii KORTHALS subsp.noronhae BLOEMBERGEN var.kankoensis (HAYATA)の異名に
Schima kangkoensis CATAYA、Schima wallichii KORTHALS subsp.superba BLOEMBERGEN var.kankoensis
BLOEMBERGENがあげられ別名に
マルバヒメツバキ、台湾名に
港口木荷、恒春木荷がある。
3.イジュの形態
以下に
Schima wallichii KORTHALS subsp.noronhae BLOEMBERGENの樹木としての形態について記すが、これらは
Schima wallichii
KORTHALS全体についてもほぼあてはまる。通常高さ10~20m、直径50~100cmになる常緑高木で、ときに高さ40m、直径150cmに達するものがある。樹幹は円柱状で板根は出ない。樹皮は褐色または灰黒色で凹凸が多く角ばった形の裂片に割れる。若枝には初
め密に絹毛があるが後に無毛となる。葉は互生して枝先に集まって着き、通常長楕円形、ときに楕円形、長さ7~15cm、幅2.5~5cm、ふつう鋭尖頭、ときに鋭頭、基部は楔形または鈍形、ふつう鈍鋸歯縁でときに全縁、革質、両面無毛または下面脉上に毛
がある。このうち
イジュの葉はふつう長楕円形、鋭尖頭、鈍鋸歯縁で薄い革質、両面無毛である。葉柄は長さ2~3cmある。4~6月に開花し、花は枝の先端近くの葉腋に単生したものが密接して総状花序の様子を示す。花柄の長さ1.5~3cmで萼の下部に2個
の小苞があるが小さくて早落性。花冠の径は4~5cm。萼片5個は腎円形で小さく内面に絹毛を密生する。花弁5個は倒卵形で内に凹み長さ2~3cm、白色、基部で合着しその外面に絹毛がある。雄ずいは多数で基部のみが合着し長さ10~15mm、葯は丁字着する
。雌ずい1個、子房上位で密毛があり5室からなり各室に3個の卵子を含む。花柱は長さ約8mmで分岐しない。果実は扁球形で径1.2~2.0cm、木質のさく果で密毛を被る。宿存した萼があり上端から5片に3/4ほど裂開し中軸を残す。種子は扁平な腎形で長さ8~
9mm、淡褐色で縁に広い翼がある。
なお
シマヒメツバキは葉が薄い革質でふつう全縁、尾状鋭尖頭、果実がやや大きいことで分けられているが、この程度では基本の
タイワンヒメツバキと区別するのが難しいとも思われる。
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