ヤマビワとナンバンアワブキ
1.ヤマビワの名称、形態と分布
ヤマビワは
アワブキ科
Sabiaceaeに属し、学名は
Meliosma rigida SIEBOLD et ZUCCARINIで異名に
Meliosma pungens
WALPERSがある。
ヤマビワは
山枇杷で
タイワンアワブキ、シマアワブキは別名となる。台湾名・中国名は
筆羅子、野枇杷である。方言名には各地に
ヤマビワのほか
スグワ(和歌山県)、
スノキ(四国、種子島)(葉に酸味があるためか)、
オトボ(鹿児島
県)、
ハシギ(種子島)、
ザッツノツエ(鹿児島県、座頭の杖)などがある。
常緑の小~中高木で高さ10m、直径30cmまでになる。樹肌は平滑で灰色、若枝に褐色の綿毛を密生し冬芽は裸芽である。葉は互生して枝端に集まり倒皮針形から長楕円形、長さ10~20cm、幅3~6cm、鋭頭または急鋭尖頭、基部は楔形で葉柄に流れる。成
葉は全縁または上半部に短芒で終わる疎鋸歯をもつが若木では鋸歯が大きい。革質で下面に褐毛を密生する。中肋と10~16対ある側脉は下面で突出している。葉柄は長さ1.5~4cmで褐毛を密生し基部は膨らむ。
5~6月に新枝端に3角形で長さ15~25cmの大形の円錐花序を出し多数の小白花を密につける。花序軸には褐色の綿毛を密生。花の径は約4mmで萼片は5個、大小不同で円形~卵形、花弁5個のうち外側の3個は大きく心円形、他の2個は小さく先端が2裂する
。雄ずいは5個あって、うち2個が完全雄ずいで小花弁に対生し他の3個は仮雄ずいで大花弁の基部につく。雌ずいは1個で子房上位、花柱は細長で雄ずいより超出する。11月にほぼ球形で径が4~6mmの石果が熱し、始め紅色で後に黒紫色となる。核は灰褐色
である。
伊豆半島以西の本州、四国、九州、琉球、台湾、支那、ヒマラヤと広く暖帯~亜熱帯に分布する。
2.ヤマビワの材の組織、性質と利用
ヤマビワは散孔材で辺心材の区別は不明瞭、淡紅色から紅褐色で年輪が認められる。横断面で見る道管孔は単独または2~3個が放射方向、ときに斜方向や接線方向に接続し分布数は13~25/m㎡、単独道管の輪郭は円形、広楕円形などで角ばっている。径
は0.05~0.12mmで階段せん孔および単せん孔をもつ。材の基礎組織を構成する真正木繊維の径は.03~0.05mm、壁厚は0.003~0.006mmで隔壁木繊維が存在する。軸方向柔組織があるほかは、不連続なターミナル柔組織および散在する柔細胞が僅かに見られる
。柔細胞の径は0.02~0.05mm、壁厚は0.001~0.002mmである。放射組織は1~3、ときに4細胞幅、4~40細胞高またはそれ以上で大部分は方形細胞で構成されているが、異性である。すなわち単列部および多列部の周辺の1部に直立細胞の層、中間の1部に放
射方向の長さが短く軸方向の高さが低い移行的な平状細胞の層が見られる。
材の気乾比重を記した例に0.60があるが、一般にこれよりいくらか重いようであり折れにくいが反りやすいといわれる。ふつう薪炭材に用いられているが、多少大きい樹が得られるので担ぎ棒、道具の柄、洋傘の柄、杖、箸、砂糖樽などを含む小物器具
材に使われまたシイタケ榾木にもなる。伊勢神宮の神事で火を起こすのにヒノキ板上でこの
ヤマビワのきりでこすることがよく知られている。
3.ナンバンアワブキの名称、形態と分布
ナンバンアワブキの学名は
Meliosma squamulata HANCEで
Meliosma lutchuensis KUOIDZUMIの異名がある。和名の別名に
クスノキモドキと
リュウキュウアワブキとがあるが、後者は別種
フシノハアワブキMeliosma oldhami MIQUEL ex
MAXIMOWICZの別名とされることがあるので使わない方がよい。台湾名は
緑樟である。
常緑の小高木で樹肌は平滑、褐色を呈する。葉は互生し長楕円形または皮針形、長さ8~11cm、幅2.5~4cm、漸尖頭または有尾状を示し基部は楔形、全縁である。革質で上面には光沢があり、無毛、下面は多少粉白色で鱗毛があるかときに無毛、側脉が5
~7対ある。葉柄は細長で長さ5~10cm、基部は常に膨れている。3~5月に円錐花序を頂生および腋生し長さ10~15cmあり花序軸に褐毛を布く。花は小さく径が約3mmで白色、萼片は3個、花弁は3個で大きさが不同、雄ずい2個が完全雄ずい、2個は仮雄ずい
である。雌ずいは1個。果実は球形で径5~6mmあり紅色から黒色に熟する。
奄美大島以南の琉球、台湾、支那南部に分布する。
4.ナンバンアワブキの材の組織、性質と利用
散孔材で辺心材の区別は不明瞭、淡紅色から褐色を呈する。年輪は認められる。横断面で見る道管孔は単独またはおもに放射方向に2個が接続、ときに柔細胞と介在して放射方向に連なる。分布数は6~12/m㎡である。単独のものの輪郭は円形から楕円形
で角ばっている。径は0.03~0.12mm。基礎組織の真正木繊維は径が0.03~0.05mm、壁厚が0.003~0.005mmで隔壁木繊維も存在する。軸方向柔組織には不規則な0~1層ときに2層の周囲柔組織があり、また放射方向に連なる道管の間に介在する大形の柔細胞も
見られる。ほぼ1層の不連続なターミナル柔組織および基礎組織中に散在する僅少の柔細胞もある。柔細胞の径は0.02~0.05mm、壁厚は0.001~0.002mmである。放射組織は1~3、ときに4細胞幅、3~50細胞高またはそれ以上である。異性であるが大部分は方
形細胞から構成されており、単列部および多列のものの周辺の1部に直立細胞の層、中間に放射方向の長さが小さい平状細胞またはそれに移行する形のものの層が少数現われる。
材の気乾比重の値に0.61がありまたやや重硬という記載がある。薪炭材、小器具程度の用途があるのに過ぎない。
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