ヒイラギ
1.ヒイラギの分布、名称と民俗
ヒイラギの学名は
Osmanthus heterophyllus P.S.GREENで、
Osmanthus ilicifolius Hort.ex CARRIERE、Osmanthus aquifolium SIEBOLD ex SIEBOLD ex
ZUCCARINIはその異名である。
ヒイラギは本州の福島県以南、四国、九州中部・南部と台湾に分布する。太平洋側では照葉樹林に多く見られるふつうの樹種で、植生の単位に
ウラジロガシーヒイラギ群集(本州で福島県以南の太平洋側、四国東北部)、
ヒ
イラギ亜群集(房総半島南部、伊豆半島)の名が用いられている。
台湾産のものは
タイワンモクセイ(マルバモクセイ、シマモクセイ、タイワンヒイラギ:台湾名:刺格)
Osmanthus integrifolius HAYATA、
タイワンモクセイモドキOsmanthus bibracteatus HAYATA、
ミヤマモクセイOsmanthus acutus MASAMUNE et
MORIとして、それぞれ別種または
ヒイラギの変種とされたものであるが、これらは
ヒイラギと同一種と見る考えに従う。また琉球・西表島に分布するヒイラギと見られたものは、別種
ヤエヤマヒイラギOsmanthus iriomotensis
YAMAZAKIとする考えがあるので、
ヒイラギの分布から除いた。
ヒイラギの名は葉の鋸歯が鋭い鋸歯になっていて、さわればひりひりする、すなわちひひらぐ(疼ぐ)ことによる。漢字に
柊、柊樹があてられるが、これは作り字で花が冬に咲くこと、または常緑であることからきている。また
疼木、紅谷樹が用いられ
ることがある。漢名として
狗骨も用いられるが、これは誤りで、中国名で
狗骨というのは
モチノキ科
Aquifoliaceaeの
シナヒイラギ(ヒイラギモチ)Ilex cornuta
LINDLEYで、葉に刺状の鋸歯があるが、互生する全く違ったものである
。ヒイラギの英名は
false holly、holly osmanthus、holly oliveがあてられる。
方言名には葉に刺状の鋸歯があることと、後記の邪鬼除けの民俗に関係した名称が多い。
ヒイラギ系(
ヒラギ、ヒヒラなど)(各地)、
イタイタ(三重、奈良県)、
アタタノキ(福井県)、
バラ(千葉県)、
ネズミバラ、ネズミサシ系、
ネズミノハナツ
キ(以上千葉・静岡・三重・高知県)、
ハナツキ(三重県)、
メツキシバ(和歌山・高知県)、
オニシバ(三重県)、
オニノメツキ系、
オニザシ(愛知県、関西、四国)などである。
民俗では節分にイワシの頭を
ヒイラギの枝に挿して戸口にかけ邪鬼除けにすることがよく知られている。これは大晦日や、流行病がおきたときにも行われた。
『土佐日記』に「今日(元旦)は都のみぞ思ひやらるる。小家の門の瑞出之縄(しりくめなわ
)、なよしの頭、ひひらぎいかにとぞいひあへる」とあり、古くはなよし(ボラかコノシロ)を使ったとされる。
そのほか屋敷にヒライギを植えると魔よけになり、流行病にかからぬという処も多く、まじないや、天気占いにも使われる。京都下賀茂神社の境内末社の比良木社は「
柊さん」と呼ばれ、痘瘡の神様として願をかけ、お札に社頭に何かの樹を植えると、
いつのまにか皆ヒイラギ様の刺がある葉になってしもうという。これは
ヒイラギのほかに
ヒイラギモクセイ、ヒイラギモチ、ヒイラギナンテンなどが植えられたものである。
なおクリスマスにリースなどにして飾られる赤い実の
ヒイラギというのは日本産の
ヒイラギではなく、これも
モチノキ科の
セイヨウヒイラギIlex aquifolium LINNAEUSである。
ヒイラギは庭木として植えられよく知られているので、文芸の上でもよく扱われている。
柊の花すがすがし冬の来てさむさにむかふ朝日のさすも 岡 麓
柊の花のこぼれや四十雀 浪 花
2.ヒイラギの概要
常緑の小高木で、高さ2~10m、直径は30cmまでである。分枝が多い。樹皮は帯褐灰白色、平滑で光沢があり、円形の大きい皮目が出る。高令木では深い縦の割れ目が出る。小枝は灰色を呈し、若枝には短い細軟毛がある。
葉は対生する単葉で、楕円形または倒卵形、革質で無毛、両面に腺点をもつ。若齢木のものまたは壮齢木以上でも下枝のものは長さ3~7cm、幅は刺を含んで1.5~4cm、鋭尖頭、基部は鋭形~鈍形、両縁に硬く大きい刺となって2~5対の牙歯が出る。
高齢木のものは長さ2.5~5cm、幅1~2cmで、鋭尖頭から鋭頭~鈍頭、基部は鋭形~鈍形、刺状の牙歯はなく全縁である。上面は光沢があり、中助は上面では平坦、下面では著しく隆起し、側脉は4~7対あるが不明瞭である。葉柄は長さ5~10mmでほとん
ど無毛である。
11~12月に開花し、雄花と両性花とが別株につく。葉腋に3~5、ときに8個までの花が束生し芳香がある。包は楕円状卵形で長さ3mmほど、2個が基部で合着し、外面と縁に短い細軟毛がある。花梗の長さは5~12mmである。がくは広いコップ形で長さ約1m
m、幅2mm、4裂し無毛、裂片は広い3角形である。花冠は白色で4深裂し、筒部は短く長さ約0.5mm、裂片は線状長楕円形で長さ3~4mm、強く反巻し、円頭を呈する。雄花では雄ずい2個と小さい退化雌ずい1個をもつ。雄ずいの長さは約3.5mm、花系の長さは約
1.5mmである。両性花は雄花より少し小さく、雄ずい2個と雌ずい1個をもつ。子房は卵形、無毛で、花柱の長さは約2mm、柱頭は2裂する。石果は楕円形で長さ1.2~2cm、翌年の7月頃に熟して青黒色となる。
ヒイラギは寿命が比較的長く、各地で名木とされているものがある。一、二例をあげる。盛岡市法華寺のヒイラギは樹高10m、根元直径80cm、推齢樹齢270年である。京都市仙洞御所のものは樹高5m、胸高周囲1.2mである。
3.ヒイラギの栽培品種
ヒイラギは庭園樹に用いられ、次のような栽培品種がある。
フイリヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Variegatus:葉に白斑がある。
フクリンヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Albo-marginatus:葉に白い覆輪がある。
オウゴンヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Aureus:葉はほとんど黄色である。
キフクリンヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Aureo-marginatus:葉に黄色の覆輪がある。
ムラサキヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Purpurascens:葉は初め紫色を呈する。
マルバヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Rotundifolius:矮性。葉は小形で広楕円形、長さ2.5cmほどである。
ヒトツバヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Myrtifolius:葉は若木でも全縁で小形である。
キッコウヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Subangulatus:葉は小形、亀甲形で稜角はあるが、牙歯は刺にならない。
ツカミヒイラギOsmanthus heterophyllus P.S.GREEN cv.Undulatifolius(異名
Osmanthus ilicifolius Hort.ex CARRIERE var.undulatifolius
MAKINO):葉縁は不規則な波状または波状牙歯で、下面に反巻する。神奈川県江の島植物園で発見され、同処に現存している。
4.ヒイラギの材の組織、性質と利用
ヒイラギの材を横断面で見ると、多数の小さい道管が道管状仮道管、柔細胞と共に集まって、放射方向にやや長くときに分岐する火焔状や樹枝状と呼ばれる特殊な配列をして、肉眼で見た場合も紋様孔材という型の代表とされる。
辺心材の区別はなく黄白色を呈する。年輪はやや明瞭またはやや不明瞭である。木理は通常通直、肌目は精である。
道管の断面形は多角形で、径は小さく0.02~0.05mm、分布数はきわめて多く100~180/mm2である。せん孔板はやや傾斜し、単せん孔をもつ。内壁にらせん肥厚がある。道管状仮道管は道管群の中に混じって存在する。
材の基礎組織は真正木繊維が形成する。その長さは0.7~1.5mm、径は0.01~0.015mm、壁厚は0.002~0.004mmである。軸方向柔組織では、周囲柔組織がきわめて不規則に道管周辺および道管群の間に入りこんでいる。ターミナル柔組織は放射方向に2~
5細胞層である。また僅かの単独で基礎組織中に散在する柔細胞がある。柔細胞の径は0.015~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mmである。
放射組織は1~2細胞幅、2~15細胞高で、1細胞幅のものは少ない。その構成は異性で、単列のものおよび2列のものの上下両端1~2層は直立細胞、方形細胞または移行形と思われる放射方向の長さが小さく軸方向の高さが大きい大形の平伏細胞からなり
、他の2列部分は小形の平伏細胞からなっている。
材の気乾比重に0.88~0.96の記載があり、縦圧縮強さ510kg/cm2、曲げ強さ810kg/cm2、曲げヤング係数6.6×10(4)・kg/cm2、せん断強さ120kg/cm2の報告がある。
樹が小さいので材のまとまった用途はないが、材が緻密で比較的強靭なことから、櫛、そろばん玉、版木、彫刻、琵琶の撥など特殊な用途に使われた。その他小器具、印判、将棋の駒、楽器の部品、玩具などがあり、薪炭材にも良好とされている。
材以外では、枝につくイボタロウムシによる蛸、樹皮が紅褐色の染料に用いられた。樹は庭園樹、生垣としてよく知られ、またキンモクセイの砧木に用いられる。
平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る