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平井信二樹木研究
カナクギノキとヤマコウバシ
1.カナクギノキの名称と方言名
 カナクギノキクスノキLauraceaeに属し、学名はLindera erythrocarpa MAKINOであるが、Benzoin erythrocarpum REHDERが用いられることも多い。異名にLindera thunbergii MAKINOがある。タナクギの呼称は鹿の子木がなまったもので、樹皮が剥げて肌が斑状になることによっている。中国名は紅果山胡椒、紅果釣樟、詹糖香である。
 方言名にはカノコ(静岡・岐阜県)・コガ(高知・鹿児島県)・カナクギノキ(高知県)などの系統が多く、これらに形容詞をつけたナツガノコ系(東海、九州)、シロコガ(奈良県)、タニコガ(鹿児島県)なども見られる。アサダ(中国、四国)ア カラギ(同前)も樹肌の感じからきたものと思われる。材が脆弱なことによると思われるものにイモギ(和歌山県)、アワガラ(近畿)、ヌカガラ(近畿圏、鹿児島県)、タナアサ(木曽)などがある。そのほかモズノキ系(三重県)、シロモジ(「草木 図説」)、タデギ(和歌山県、四国)、ノハイ(鹿児島県)、ヒエダンゴ(木曽)などいろいろな方言名が記録されている。以上の方言名の記録およに解釈はおもに倉田悟氏の諸著書によった。他の種類についても同様である。  
2.カナクギノキの形態と分布
 落葉中高木で高さ10m、直径30cmに達する。樹皮は灰褐色で、鱗片になって剥げおちてその跡は褐色~灰褐色の斑になる。縦に細かく割れが入り、またアサダのように多少ささくれ立つものもあり、いぼ状の皮目が多い。若枝には長軟毛が多いが後に無 毛となる。頂芽ができ側芽は形成されない。葉は互生する単葉で、倒皮針形から倒皮針状長楕円形で、長さ6~15cm、幅1.2~2.5cm、鋭頭、基部は鋭尖形、全縁、側脉は5~6対あって斜上する。上面は無毛、下面は初め絹毛があるが、後に主脉は下面でと くに明瞭である。粉白色を帯びる。脉理は下面でとくに明瞭である。葉柄は長さ0.5~2cmでふつう紅色を帯びた、やや絹毛を残存する。
 4~5月に新葉とともに開花し散形花序を葉叢の基部からぶら下げる。雄雌異株。雄花序は9~20花をつけ、花序柄の長さ5~10mm、花柄の長さ8~15mmで有毛。花被片は6個で長さ2~3mm、内外に微毛を散生し淡黄緑色を呈する。雄ずいは9個が3輪になって 配列し、葯は2個で内向、2弁が裂開する。最内輪の3個の雄ずい基部左右に黄色の腺体をもつ。退化雌ずいは小さい。雌花序は8~13花からなり、花序柄の長さ約8mm、花柄の長さ3.5~8mmで有毛。花被片は6個。9個の退化雄ずいが3輪に並び葯はなく、最内 輪の3個は黄色の腺体をもつ。雌ずいは1個、長さ約3mm、子房は倒卵形、花柱の柱頭は斜切形で粒状突起がある。9~10月に液果が紅色に熟し、球形で径5~7mm、その基部は果柄のふくらんだ上端部に僅かに包まれている。種子は1個を含む。
 本州(箱根、福井県以西)、四国、九州(屋久島まで)、朝鮮、支那に分布している。  
3.カナクギノキの材の組織、性質と利用
 散孔材。辺心材の区別は不明瞭で灰白色から淡褐色を呈する。年輪は認められる。山林暹氏の朝鮮産ものについての記載と写.真によって組織の要点をあげる。(このwebでは7は掲載しておりません)道管は単独または2~3(~6)個がおおむね放射方向に接続するが2個接続のものが多い。分布 数は17~60/m㎡、径は0.03~0.1mm、単せん孔でまれに階段せん孔ある。真正木繊維は長さ0.5~1.3mm、径0.01~0.028mm、壁厚0.003~0.005mm。軸方向柔組織には周囲柔組織と翼状柔組織がある。放射組織は1~2(~3)細胞幅、高さ0.07~1.0mmで、その 構成は異性、すなわち上下端などの単列部分は方形細胞、中間は平状細胞である。軸方向柔組織、放射組織に分泌巨細胞があるが顕著でない。
 材の気乾比重に0.61~0.70の範囲の記載が見られるが、材質はむしろ脆弱なものとされている。材の利用に木釘をあげている文献があるが、これは多分呼称カナクギノキを金釘の木と誤って解釈したことからきたものであろう。
 材の利用はおもに薪炭材であるが、小形の器具材、小細工物、楊子などがあげられよう。  
4.ヤマコウバシの名称と方言名
 ヤマコウバシクスノキLauraceaeに属し、学名はLindera glauca BLUMEで、Benzoin glaucum SIEBOLD et ZUCCARINIが用いられるこも多い。葉をもむとよい香りがすることから山香ばしいといったもので、一名にヤマゴショウ、ショウブノキがあり、中国名は山胡椒、野胡椒、牛筋樹である。
 方言名に多いモチシバ・モチノキ系(各地)、トロノキ・コナシバ・コウセンシバ(以上埼玉県)、ソバノキ系(四国)などは、葉に粘質物を含むので粉にしてそばのつなぎや殻粉に混ぜて団子にするなどの利用があったからと考えられる。もっとも正 月14日にこの樹の枝に丸餅をつけて飾るので(茨城県)モチノキというとの解釈もある。そのほかヤブゴショウ(大阪府)、タンバ(中国)、ムラダチ(三重県)、アキマンドウ(山口県)、ナタノハオロシ(福岡県)、ハオシミ(熊本県、冬に枯葉が樹 に残ることから)などがある。  
5.ヤマコウバシの形態と分布
 落葉低木~小高木で、幹は叢生し、高さ5m、直径13cmに達し、ときに高さ8mまでになるものがある。樹皮は淡褐色で平滑、若枝は灰褐色で短毛を密生し始め皮目はないが、2年目からできて細かい割れ目が入る。枝先が落ちて頂芽はできない。枝葉を折 るとショウブに似た香りがする。葉は互生する単葉でやや厚くかたい洋紙質、楕円形・長楕円形などで長さ5~10cm、幅2.5~4.5cm、鈍頭または鋭頭で鈍端、基部は広い楔形、全縁で波状となり、側脉は5~9対ある。上面の中肋と縁に微毛があり、下面は 初め絹毛を密生するが後に散生するようになり、灰白色を呈し脉理は隆起している。もえ出たばかりの若葉は葉身の下半部から折れて下垂する。葉柄の長さは3~5mmで短毛である。冬も枯葉が枝上に残っている。
 4~5月に開花し、雌雄異株で、日本では雄株が知られていないが、雌株で結実する。支那には雄株がある。前年枝の葉腋から散形花序が1~3個ずつ出て、1花序に雌花が3~4個つく。花序柄の長さ0~5mm、花柄の長さ5~7mmで絹毛を密生する。花被片は6 個で淡黄色、長さ約1.4mm、退化雄ずい9個が3輪になってつき葯はなく最内輪のものの左右に腺体をつける。雌ずいは1個で長さ約2.5mm、柱頭は盤状で縁が反りかえる。10月に液果が黒色に熟し、球形で径は約7mm、果柄は長さ10~15mmで先に向って次第に 太くなる。果実はかむと辛味がある。
 分布は本州(関東以西)、四国、九州、朝鮮、支那、インドシナにわたっている。  
6.ヤマコウバシの材の組織、性質と利用
 散孔材。辺心材の区別は不明瞭で灰白色~淡黄白色を呈する。年輪は認められるがやや不明瞭である。肌目は精。材の顕微鏡的構成要素は道管、真正木繊維、軸方向柔組織と放射組織とである。
 道管は単独またはおもに放射方向に2~5個が接続し、分布数は20~90/m㎡を示す。単独道管断面形は楕円形などで径は0.02~0.08mm、春材から夏材に向けて径をやや減ずる。せん孔板は傾斜しおおむね単せん孔である。真正木繊維ふあ基礎組織を形成し 、長さ0.5~1.5mm、径0.01~0.02mm、壁厚0.002~0.005mmである。軸方向柔組織では周囲柔組織が薄く0~1細胞層、ターミナル柔組織があるが薄くて0~1細胞層。通常の柔細胞の径は0.01~0.025mm、壁厚は0.001~0.002㎜である。放射組織は1~2(~3) 細胞幅、5~50細胞高、その構成は異性で、単列部分は方形細胞ないし直立細胞で結晶と含むものがあり、他は平状細胞からなる。周囲柔組織と放射組織の単列部に径が0.04㎜までのやや大形の分泌巨細胞が混じている。
 材の気乾比重に0.76の報告があり、材は堅硬である。材の利用は小器具、小細工物などと薪炭材である。葉をくだいて水をひたすと粘り気が出るので、そばや殻粉などにつなぎとして混ぜて用いる。  
7.ホソバヤマコウバシとオキナワコウバシ
 ホソバヤマコウバシの学名はLindera communis HEMSLEY(異名Benzoin commune REHDER、Lindera formosana HAYATA)で、一名タイワンコウバシ、コウシュンコウバシ、中国名は香景樹、香果樹である。常緑低木~小高木で、高さ4m、直径25cmとなる。樹皮は淡褐色で頂芽を欠く。葉は長楕円形などで長さ4~10cm、幅1.5~4cm、尾状鋭尖頭~急鋭尖頭、基部は楔形 、側脉は4~7対、下面で脉理が隆起し黄褐色の短毛を布くが後に脱落する。雌雄異株で、腋生の散形花序は無柄、5~8個の花からなり黄白色~淡黄緑色を呈する。液果はほぼ球形で凸端、長さ約8m、深紅色となる。
 支那南部、台湾、インドシナ、インド、ビルマに分布している。材は器具、建築雑用に利用され、葉に香気があるので調味料とされる。種子から得られる油は薬用、潤滑油その他に用いられる。
 オキナワコウバシ(一名オキナワヤマコウバシLindera communis HEMSLEY var okinawensis HATUSIMAは前記の変種で、常緑小高木。葉は倒皮針状長楕円形など、長さ4~8cm、幅2~3cm、短い鋭尖頭、下面脉上に伏毛があるが後に無毛となり、灰白色で脉理が隆起している。散形花序は有柄、花柄の長さは約2mmで有毛である。液果はほぼ球形で径 約6mm、深紅色に熟する。琉球(沖縄県、石垣島)の産である。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る
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