バチカ属の樹木(その5)
28.Vatica cuspidata SYMINGTONの概要
Vatica cuspidata SYMINGTONは
Sect.Sunapteaに属し、マレー産で地方名を
resak daun
runchingという。この地域の
バチカ属では最も多い種類だろうといわれる。小高木からかなりの大高木まであり、大きいものは直径75cmまでとなる。樹皮は不規則な形の裂片になって剥げ、そのあとは渦紋となり、その他は比較的平滑である。板根は
著しくない。
葉は楕円形~長楕円状皮針形で長さ7~18cm、幅3~6cm、側脉は10~17対、ほぼ無毛である。葉柄は長く2~5cmで、星状毛が多い。花序は小さく、花弁は白色を示す。果実は卵形で長さ0.8cmまで、がく裂片5個のうち2個は翅に発達し長さは約7.5cm
、他の3個は小さく長さは2.5cmまでである。これらは基部まで離生している。
29.Vatica cuspidata SYMINGTONの材の組織、性質と利用
材の顕微鏡写.真があるので要点をあげる。道管は大部分が単独、まれに放射方向・斜方向などに2個が接続して散在し、分布数は13~18/mm2である。径は0.04~0.15mm、せん孔板は僅かに傾斜し単せん孔、チロースが僅かに認められる。材の基礎組織を
構成する繊維状仮道管は径0.015~0.03mm、壁厚0.004~0.008mmである。
軸方向柔組織では周囲柔組織は薄く0~3細胞層である。横断面でみて、道管孔の放射方向の片側に帽状になって偏在する傾向がある。まれにやや翼状にとなる。短接線柔組織の形のものは少なく、単独で散在する柔細胞も少ない。垂直樹脂道を囲む柔組
織は比較的よく発達し、翼状からやや帯状柔組織の形を呈するものもある。これらは放射方向に2~14細胞層あって、ときに短接線柔組織や単独散在柔細胞に移行する。柔細胞の径は0.03~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmである。垂直樹脂道はその分布が少
なく、単独で散在し2~6/mm2、径は0.04~0.08mmである。
放射組織は単列型と2~5細胞幅の多列型とにわかれる傾向があり、単列型のものは少なく3~10細胞高、多列型は15~60細胞高を示す。その構成は異性で、単列のものの大部分および多列のものの上下両端の単列部1~5層と周縁の1部、まれに内部に大型
細胞層(直立細胞、方形細胞および高さの大きい平伏細胞)であり、その他は高さの小さい小型の平伏細胞層である。
材の気乾比重は0.87~1.20で、重硬ないしきわめて重硬である。材質数値の例に、生材から気乾までの収縮率は接線方向3.4%、放射方向1.5%、生材での強度は縦圧縮強さ107kg/cm2、曲げ強さ1,173kg/cm2で、曲げヤング係数18.5×10(4)・kg/cm
2がある。
材は重硬でありまた樹脂を含むため、製材・切削は困難であり、乾燥に長い時間を要しきわめて困難である。心材の耐朽性は高い。マレーで重硬なresakの代表的なもので、構造材、杭・橋梁・埠頭用などの土木材、器具材その他に現地で広く用いられ
る。
30.Vatica perakensis KING
Vatica perakensis KINGは
Sect.Sunapteaに属し、マレー産で現地名を
resak putehという。小高木~中高木で、大きいものは高さ35m、直径50cmまでになる。樹幹は通直である。
葉は皮針形、倒皮針形などを示し長さ6~14cm、幅2~4cm、側脉は10~13対あり、ほとんど無毛である。葉柄の長さは0.6~4cmある。花序の長さは5cmまでで、花弁は淡黄色を呈する。果実は卵形で長さ1cmまで、がく裂片5個のうち2個は翅になって長さ
は約6.5cm、他の3個は短く長さ約2cmで、これらは基部まで離生している。材は硬く強いといわれ、
resakとして扱われる。
31.Vatica bella VAN SLOOTEN
Vatica bella VAN SLOOTENは
Sect.Vaticaに属し、マレー産で現地名を
resak keluang、damar
keluangという。大高木で高さ50m、直径45cmまでに至る。葉は楕円形~倒卵形で長さ5~14cm、幅2~6cm、側脉は9~12対あり、中肋以外は無毛で、葉柄の長さは0.5~1.5cmである。花序は簇生し長さ2cmまで。果実は円錐形、卵形で長さ2.5cmまでである。
果時のがく裂片は5個がほぼ同形で果実より少し長く、開出して反曲するようになる。材は重硬で気乾比重に0.74~0.92の記載がある。材はresakとして扱われる。
32.Vatica pallida DYER
Vatica pallida
DYERは
Sect.Vaticaに属し、マレー産で
resakといい、和名にツクバネバチカがあてられている。小高木で高さ9mを越すものは少ない。葉は皮針形などで両端が尖がり、長さ11~14cm、幅2.5~5cm、側脉は8~10対、薄い革質で、葉柄の長さは0.4~1cmである
。花序は長さ7.5~15cmで、花弁は淡黄色を呈する。果実は球形で径は0.6~1cm、がく裂片5個はほぼ同形で線状長楕円形を呈し膜質である。
33.Vatica lobata FOXWORTHYの概要
Vatica lobata FOXWORTHYは
Sect.Pachynocarpusに属すると思われ、マレー産で現地名は
resak paya、また
resak
laruということもある。ふつう小高木で、直径は35cmぐらいまでとなる。葉は倒皮針形または倒卵形、長さ11~20cm、幅3~8cm、葉柄の長さは0.6~1.25cmである。果実は卵状円錐形で径は約2.5cm、がく裂片は厚い木質となって小さい凸頭があり、果実の
下半分をとりまいて合着している。
34.Vatica lobata FOXWORTHYの材の組織
顕微鏡写.真によって材の組織の要点をあげる。道管は多くは単独であるが、2個ときに3個が各方向に接続するものがあり、これらは散在して分布数45~65/mm2を示す。径は0.04~0.10mm、せん孔板はやや傾斜し単せん孔、チロースは見られない。材の基
礎組織を構成する繊維状仮道管は径0.015~0.025mm、壁厚0.005~0.009mmである。
軸方向柔組織のうち周囲柔組織は概して薄く、横断面でみて道管の放射方向の片側につく場合が多く0~2細胞層である。短接線柔組織は不規則でふつう放射方向に1細胞層であるが、ときに4細胞層までのものがある。接線方向には2~8細胞連なるが、2~
3細胞連なっては間を飛ばしてまた連らなる形のものがあり、これらは単独で散在する柔組織に移行する。垂直樹脂道を囲む柔組織はふつうその1~3細胞層が樹脂道の全周を包む。柔細胞の径は0.02~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmである。垂直樹脂道はそ
の存在が少なく、単独で散在し分布数4~10/mm2、径0.03~0.06mmである。
放射組織は2型にわかれ、単列のものは2~10細胞高、多列のものは3~5細胞幅、25~50細胞高である。構成は異性で、単列のものはおおむね直立細胞からなり、多列のものの上下両端の単列部2~7層および周縁のごく1部は直立細胞、ときに方形細胞
、他は平伏細胞からなる。この大型・小型の細胞形の分化は比較的明らかである。細胞中に結晶が見られる。
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