サキシマスオウノキ
1.サキシマスオウノキの名称
サキシマスオウノキは
アオギリ科(
Sterculiaceae)の樹木で、学名は
Heritiera littoralis DRYANDERである。漢字で書くと
先島蘇芳木で、わが国の西南端地域の宮古島、石垣島、西表島などを含む先島諸島に生じ、材から
スオウCaesaipinia sappan
LINNAEUS(マメ科)の代用の染料が得られるという意味である。一名に
ハマグルミ、マルバグルミがあり、また沖縄の各地に次のような方言名がある。
シーワーギー(スオウギ)、アカズミギ(
赤染木の意)、
ダイミョウギ(大名木)、ウンマヌタニ(馬の
金玉の意)、英名は
looking-glass treeという。後に記すように南方地域に広く分布しているので、各所にそれぞれの名称がある。
(台湾)
銀葉樹、大白葉仔、(インド、バングラディッシュ)
sundri、(ビルマ)
kanazo、pinle kanazo、(タイ)
ngawan
kai(ベトナム)
cui、(マレー、サバ、サラワク)
dungun、(サバ)
dungun laut、(インドネシア)
doen goe、peropa kapoete、roemoe、taloengan、(フィリッピン)
dungon-late、(パラオ)
chabibech、(ポナペ)
marapin
set、(ヤップ)
runなどがその主なもので、パプア・ニューギニアの木材取引名に
heritieraが使われている。
2.サキシマスオウノキの形態と分布
常緑の中高木で、樹高は5~15m、直径50cm程度が多いが、大きいものは樹高25m、直径90cmという記載がある。樹幹の下部に著しい板根が出るのが特徴的で、平均厚さ7cmほどの割合薄い板状のものが蛇のようにくねくねうねってはり出し、
樹幹上に高さ6mくらいにあがる。このような板根はわが国産ではほとんど唯一のもので、西表島の原生林の紹介によく引合いに出されている。樹皮は灰色から灰褐色で縦の浅い割れ目があり、老木では鱗片状になって剥落する。葉は単葉で互生し脱落性の
托葉がある。楕円状卵形、楕円形などで長さ8~20cm、幅4~8cm、先端は鈍頭まれに鋭頭、基部は円形または浅心形でしばしば左右非対象を示す。全縁で革質、上面は深緑色無毛で光沢があり、下面は淡灰色から銀灰色の鱗状毛が密生し、これに褐色の鱗
状毛が混生していることがあり、ちょうどグミ類のような感じである。側脈は羽状に出て8~10対、葉柄の長さは約1cmである。ふつう5~7月の間に葉脉から長さ7~18cmの円錐花序を出して開花する。花序軸の上部には星状毛があり下部には鱗状毛を密生
する。単性花であるが雌雄同株で、花はふつう黄白色、鐘形で長さ3~7mm、長さ3~12mmの花柄とともに鱗状毛がある。卵形で長さ1~2.5mmの萼裂片4~6個からなり花弁はない。雄ずいは雌ずいと合体して長さ約2mmの細長なずい体を作る。雄花の雄ずいは
8~10個あり、1個の退化雌ずいの周囲につき、葯がずい体の頂端に輪生している。雌花の子房は4個、ときに6個までがほとんど離生し、それぞれに1個の卵子を含み花柱は短い。果実は分離した硬い木質の堅果で、少し扁平な広楕円形、長さ3~6cmで背側
の中肋が著しく隆起して鋭い竜骨状になりその先端はごく短い翼をなす。熟して褐色となり表面平滑で光沢があり、中に1個の種子を含み裂開しない。この果実は海水に浮いて散布される。玄海灘沿岸にも漂着するという。
分布はわが国では奄美大島以南の琉球で、台湾その他熱帯アジア、太平洋地域(ニューギニア、ミクロネシア、ハワイ、ニューカレドニアなど)、オーストラリア北部、アフリカ東部の広い地域にわたり、マングローブ林およびこれに隣接する海岸地域
、湿地林に生ずる。西表島では古見三離御嶽(こみみちゃりうたき)境内の巨木群が天然記念物に指定されており、また仲間川を少し遡った処にあるものは樹齢400年といわれ高さ15mくらいで観光の対象になっている。
3.サキシマスオウノキの材の組織
散孔材で、辺心材の境界はふつうやや不明瞭、辺材は淡紅色で幅6~8cm、心材は暗紅褐色から暗褐色を示し、ときにやや濃淡の縞が現われる。年輪は不明瞭。肌目は緻密で木理は交走するものがある。縦断面ではふつう波状紋が見られるが、これは木繊
維と軸方向柔組織が、また接線断面では放射組織のおおまかな階段状配列に由来するものである。
横断面で見ると道管は単独、または2~4個が放射方向に接合し、この単独道管または道管群の分布数は5~10/mm2である。接合道管群には中に小径道管が介在するものがあり、ときに接線方向にも接合して6個ほどまでの群となる。道管の径は0.04~0.18m
m、単せん孔で、せん孔板は水平に近いものからや傾斜するものまである。
基礎組織を構成しているのは真正木繊維と思われるが、その構成割合は軸方向柔組織にくらべてあまり多くない。繊維の長さは1~2mm、径0.01~0.02mm、壁厚0.003~0.005mmである。
軸方向柔組織には短接線柔組織とこれが移行する木繊維中に散在の柔細胞および周囲柔組織とがある。短接線柔組織は数多く、密に存在し、多くは放射方向に1細胞層、ときに5細胞層まであり、接線方向には2~10細胞が連なって放射組織の間をつなぐ
ものが多い。この短接線柔組織間をうめる繊維は2~5細胞層である。周囲柔組織は0~3細胞層である。柔細胞の径は0.02~0.04mm、壁厚0.001~0.0015mmで、中にシリカと結晶を含むものが多く、また濃色の内容物を含むものがある。
放射組織は1~6細胞幅、5~50細胞高で単列のものは比較的少ない。接線断面で階段状配列を示す傾向が見られる。構成は異性で、多列部の大部分は平伏細胞からなるが、上下両端1~3細胞層および周縁の一部は鞘状部となって方形細胞ないし直立細胞
で構成される。この鞘状部はあまり著しくない。シリカ、結晶を含むものがあり、ふつう濃色の内容物を含む細胞が多い。
4.サキシマスオウノキの材の性質と利用
材は重硬ないしきわめて重硬で、気乾比重の値としてあげられたものを列挙すると、0.80~1.20、1.00~1.17、0.86、0.99~1.06、0.86~1.04、0.90がある。強度的数値を求めた結果は手元にないが、比重に相応してかなり大きいと考えられる。乾燥は
困難であり、製材および切削加工も材が重硬なこととシリカを含むことで困難である。心材の耐朽性はやや高く耐蟻性も大きい。
サキシマスオウノキ属Heritieraのうち、
サキシマスオウノキとその近縁種は、次回に記す
Heritiera属中の
mengkulang類(マレー名)(
Tarrietia属として別に扱われることも多い)にくらべて、樹が大きくなく、材が重硬で加工困難なため市場材とし
ての重要性はずっと低い。
材は建築・土木(重構造材その他)、船舶、車両、器具、枕木、燃料などに用いられるが、おおよそ地方的な使用が多い。特異な形の板根は小舟の蛇に用いられたことがあり、竹富島に天保時代のものが残っている。樹皮からタンニンが得られ、また若
木のものは縄索などを作るのに利用される。材の煎汁は
スオウ代用の紅色染料とされる。
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