メルサワ属の樹木(その4)
15.Anisoptera thurifera BLUMEの概要
Anisoptera thurifera BLUMEは
Sept.Anisopteraに属し、
Anisoptera vidaliana BRANDIS、Anisoptera tomentosa
BRANDISなどはその異名である。フィリピン個有の
Anisopteraの4種の材はすべて市場名
palosapisといわれるが、この種類が広くフィリピンー円に分布し最も普通で代表的であるので、
palosapisの標準名はこの種類にあてられる。各地に多くの現地名があ
る。
高さ40~45m、直径1.2~1.8mになる大高木で大きいものは直径2mという記録がある。樹幹は円柱状で通直、枝下高は20~30mに達するものがある。樹皮は帯黄褐色で始めおおよそ平滑であるが年を経ると裂け目ができ疎い裂片になって剥げる。板根は現わ
れない。葉は長楕円形などで長さ6~18cm、幅3~7cm、先端は短い鋭尖頭をなし基部は円形で縁はやや波状となる。薄い革質で側脉は10~18対、これらをつなぐ細脉はほぼ平行して密な網状となる。下面脉上に微小な鱗状毛または星状毛がある。葉柄の長
さ1.3~2.5cm、ときに4cmある。頂生または腋生の円錐花序は長さ7.5~12.5cmで疎く分岐して下垂し花序軸には細かいビロード毛がある。花弁は長楕円形で鋭頭、雄ずいの数には12~14個という記載と35個という記載がある。葯隔の付属体は芒状で葯の2
倍ほどの長さである。雌ずい子房の上に鐘形の足体が続き細軟毛を布く。ときに接合部で僅かにくびれることがある。花柱は3個にわかれ無毛。果実は球形で径は1.2~1.5cm、萼裂片の外側の2個は線状へら形、鈍頭の翅となり長さ5~15cm、3縦脉とそれら
をつなぐ網状の細脉が顕著である。萼裂片の内側の3個は線形、鋭頭で長さは1.3~2.5omである。
16.Anisoptera thurifera BLUMEの材の組織と材質
辺材は黄白色、心材は淡黄褐色などでふつう淡紅色の縞が出るが後に次第に不明瞭になる。木理はふつう交走、ときにやや通直で肌目はやや粗である。道管は単独で散在するものが多くまれに2個ほどが接続、分布数5~8/mm2、径0.12~0.26mm、小さいも
のは0.05mmまである。チロースが存在するものがあるが割合に少ない。基礎組織の繊維状仮道管は径0.015~0.03mm、壁厚0.005~0.009mm。周囲柔組織はきわめて薄く0~2細胞層、ただし接線方向に3細胞までのびるものもある。垂直樹脂道を含む柔組織は
眼窩状をなすことが多くほとんど帯状柔組織の形を示さないで放射方向に1~6細胞層である。短接線柔組織~散在柔細胞の移行があり前者は接線方向にやや乱れて2~6細胞連なり放射方向には多くは1細胞層、ときに2~3細胞層である。垂直樹脂道は少なく
0~3/mm2、散在するものと多少離れているが接線方向に並ぶ傾向のものとがある。径は0.04~0.09mmである。放射組織は単列がきわめて少なく大部分が2~6細胞幅、ときに8細胞幅までの多列で、ことに幅の大きいものが多く8~50細胞高ある。構成は異性
で、単列部とそれに続く2~3列部、さらに多列部の周縁鞘状部の大部分は方形細胞またはやや大形で放射方向の長さが著しく短い平伏細胞からなり、他は通常の小形の平状細胞で構成される。シリカが存在する。
材は重さ硬さが中庸からやや重硬といった程度である。材質数値の報告された例をあげる。気乾比重0.62のもので縦圧縮強さ508kg/cm2、曲げ強さ954kg/cm2、曲げヤング係数15.7×10(4)kg/cm2、せん断強さ89kg/cm2。ほかに気乾比重0.71(0.61~0.82)
、0.80の記載がある。
切削はあまり困難でないが刃物の鈍化が著しい。ロータリ単板切削はふつう支障がない。接地での耐朽性は低いが、乾燥材は内装の諸部材に適当である。
17.Anisoptera aurea FOXWORTHY
Anisoptera aurea FOXWORTHYは
Sect.Anisopteraに属する。フィリピン固有でミンダナオ、パラワンなどを除いた地域に分布しルソン南部では最も普通である。以前
Anisoptera Curtisii
DYERでフィリピン産とされていたものはこれに該当する。フィリピン名は
dagangがこれにあてられるが木材市場では
palosapisの中に含めて扱われる。
高さ60m以上になる大高木で直径1.6mという記載がある。樹幹は通直、枝下高20~30mに達するものがあり強大な板根は出ない。葉の下面は鱗状毛を密に布き金褐色を呈することが著しい。
辺材は黄白色、心材は淡黄褐色でしばしば淡紅色の縞がある。木理はふつう交走し肌目は中庸ないしやや粗である。道管は多くは単独で散在し分布数5~10/mm2、径0.16(0.04~0.24)mm、単せん孔でチロースが見られる。基礎組織の繊維状仮道管は径0.
015~0.03mm、壁厚0.006~0.009mm、文献の記載では長さ1.3mmである。軸方向柔組織では周囲柔組織は薄く不明瞭で、散在柔細胞または短接線柔組織の方が著しい。垂直樹脂道は散在するがきわめて少なく径は0.05mmと小さい。放射組織は単列および2~5
細胞幅の2型があり多列のものの構成は異性である。細胞中にシリカが存在する。
材質数値の例をあげる。生材から全乾までの全収縮率は接線方向10.0%、放射方向4.2%、気乾比重0.58~0.61のもので縦圧縮強さ446~495kg/cm2、曲げ強さ809~955kg/cm2、曲げヤング係数11.2~14.2×10(4)・kg/cm2、せん断強さ83~115kg/cm2である。
また気乾比重が0.71、0.75(0.65~0.82)との報告もある。以上の材質はフィリピンの主要種
Anisoptera thurifera BLUMEとおおよそ同等と考えられ、したがって用途がそれと同様であり、一般に
palosapisとして区別せずに使われることが多い。
18.Anisoptera brunnea FOXWORTHY
Anisoptera brunnea FOXWORTHYも
Sect.Anisopteraに属するフィリピン個有の種類で、
Anisoptera thurifera
BLUMEと同一種である可能性があるといわれるが、ここでは一応別種として記述する。フィリピン名は
afuがあてられるが木材はこれも
palosapisとして扱われる。分布はルソン北部とその近傍の島に限られる。
直径1.2mに達する大高木で樹幹は通直、枝下高は約20mに達するものがあり板根は著しくない。
辺材は黄白色、心材は淡黄褐色でときに淡紅色の縞が出る。木理はふつう交走し肌目はやや粗い。道管はほとんど単独のものが散在し分布数3~6/mm2、径0.1~0.26mm、チロースが見られる。基礎組織の繊維状仮道管はやや量が少なく径0.015~0.03mm、
壁厚0.005~0.008mmである。周囲柔組織はこの属の他種よりやや厚く1~4細胞層。垂直樹脂道を含む柔組織はやや帯状に近くなるものもあるがふつう長くのびない。放射方向に9細胞層まである。短接線柔組織ないし散在柔細胞の量が多いことが目立ち、前
者は接線方向に放射組織をつないで7細胞まで連なるものがあり放射方向に1~3細胞層、ときに4細胞層ある。垂直樹脂道の数は少なく分布数0~3/mm2で散在したり帯状柔組織に包まれて数個が接線方向に並んだりする。径は0.06~0.11mmである。放射組織
は単列のものがきわめて少なく多列は9細胞幅まであって6細胞幅以上のものが多く15~50細胞高である。多列部の構成は異性。シリカが含まれる。
材質数値の例をあげる。生材から全乾までの全収縮率は接線方向8.4%、放射方向4.1%、気乾比重0.53および0.57のものでそれぞれ縦圧縮強さ401,468kg/cm2、曲げ強さ798,914kg/cm2、曲げヤング係数10.3、11.7×10(4)・kg/cm2、せん断強さ99,114kg/cm2
である。別に気乾比重0.71(0.67~0.73)の報告がある。
19.Anisoptera mindanensis FOXWORTHY
Anisoptera mindanensis FOXWORTHYは
Sect.Anisopteraに属しフィリピン・ミンダナオ島個有である。
Anisoptera costata KORTHALSと同一種の可能性もあるといわれるがここでは一応別種として扱っておく。フィリピンの標準名に
Mindanao
palosapisがあてられるが木材市場では
palosapisとして他の同属種といっしょに扱われる。地方名に
baliganがある。
直径1mまでになる大高木で樹幹は円柱状で通直、枝下高が15~25mに達するものがあって板根は強大でない。
辺材は黄白色、心材は帯紅淡黄褐色で淡紅色の縞がある。木理はふつう交走し肌目はやや粗。道管は一般に単独のものが散在するがときに2~3個接続するものがあって分布数3~7/mm2に単せん孔、チロースが存在する。基礎組織をなす繊維状仮道管は比
較的密である。軸方向柔組織のうち周囲柔組織は薄く顕著でない。垂直樹脂道を含む眼窩状ないしやや帯状の柔組織もある。短接線柔組織およびこれが移行する形の散在柔細胞は比較的顕著で前者は接線方向に数細胞が連なるが、これらの出現および形は
かなり不規則である。垂直樹脂道は数少なく散在しまた径は小さい。放射組織は単列のものと2~5細胞幅の多列のものとの2種の型で現われる。高さは一般に低く多列のものの構成は異性である。細胞中にシリカが認められる。
材の気乾比重は0.70(0.66~0.74)で
Anisoptera thurifera
BLUMEなどより僅かに重いと思われる。切削加工はやや困難で乾燥による収縮が大きい。ただし鉋削仕上げ面は良好である。外気にさらしての耐朽性がややあるといわれる。用途は他の
palosapisと同様であるが供給量は少ない。
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