ヒメツバキ属の樹木(その3)
6.ヒメツバキの一般
小笠原島個有の
ヒメツバキSchima wallichii KORTHALS subsp. mertensiana BLOEMBERGENの学名の異名には
Schima mertensiana KOIDZUMI、Schima boninensis
NAKAIがあり、和名の別名には
タマツバキ、ムニンヒメツバキ、小笠原島の方言に
ロースード(rose woodの意)がある。樹木の形態について
イジュSchima wallichii KORTHALS subsp.noronhae
BLOEMBERGENと違う点を主にしてあげると、葉は長楕円形で長さ8~11cm、幅3~4cm、質はより厚い革質で、ふつう鋭頭、全縁、下面脉上と葉柄に毛を生じる。その他花や果実については目立った違いがないのでイジュと区別しないとする考えも有力である
。各島の山地帯に自生する小笠原の代表的な樹で白い大きい花が着くのでよく知られている。
材の顕微鏡写.真があるので、それに基づいて要点を記す。散孔材で生長輪が認められる。道管は多く単独で、ときに各方向に2~3個が接続する。分布数は40~80/mm2である。断面形は円形ないし楕円形で輪郭が角ばっており径は0.03~0.12mm。軸方向柔
組織にはきわめて少量の散在する柔細胞が見られるに過ぎない。放射組織はこのプレパラートでは単列のみで、4~35細胞高。構成は異性で上下両端1~4層、まれに中間の数層が直立細胞または方形細胞からなり、他は平伏細胞である。材質および利用に
ついてはイジュとほぼ同様と考えられる。現地では建築材、器具材などのほか、薪炭材に用いられることが最も多く、樹皮は魚毒に、またタンニンを含むことから漁網染料に使われた。
7.その他のヒメツバキ類
基本型の
Schima wallichii KORTHALS subsp.wallichiiの分布は前に記したが、その名称にはインドで
chilauni、ビルマで
laukyo、thitya、バングラデシュで
kanak、タイで
ta-lo、中国で
峨嵋木荷などがある。
樹木としての形態について、
Schima wallichii KORTHALS subsp.noronhae
BLOEMBERGENにくらべると葉が大きくて幅が広くふつう楕円形、鋭頭、ほぼ全縁、薄い革質で下前全体あるいは脉上にのみ有毛であることなどがあげられるが、花部や果実などについての相違は明らかでない。材の組織もほぼ同様と考えられる。材質も同
様であるが、この基本型についてのものと思われる気乾比重の数値を拾ってみると0.66、0.66~0.80、0.70、0.74、0.79などがある。材質数値の例では全収縮率は接線方向8.5%、放射方向4.5%、縦圧縮強さ581kg/cm2、曲げ強さ1,084kg/cm2、曲げヤング係
数14.5×10(4)kg/cm2がある。加工的性質も同様と思われるが、材を扱う際に皮膚炎をおこすことが知られている。利用もおおよそ同様で、なおインドではかって枕木にも使われた。
Schima wallichii KORTHALS subsp.brevifolia
BLOEMBERGENはサバでは海抜1,700mから3,900mに生ずる特異な高地型で、東南アジア第一の高山キナバル山(海抜約4,000m)では小高木から森林限界近くで低木状となり独特の景観を作っている。葉は円形、卵形、広楕円形などで長さ2.5~9cm、幅1.5~5cm
、短凸頭、広楔脚、全縁で厚い革質である。白い大きい花がよく目立ち花弁の裏に紅彩が残って美しい。
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