レンガス属の樹木(その3)
14.カンボジアウルシ
カンボジアウルシ Gluta laccifera(PIERRE)(異名
Melanorrhoea laccifera PIERRE)はインドシナ産で、べトナムで
son,son dao,suongtien, カンボジアで
kroeul,ラオスで
nam kien という。
高さは15~20m、直径30cmになる落葉高木である。葉は長楕円形で、鈍頭である。円錐花序に白色ないし黄色の小さい花をつける。
材の気乾比重に、0.76~0.87の記載があり、縦圧縮強さ709kg/c㎡、曲げ強さ1,169kg/c㎡の報告がある。家具、施削物その他に用いられる。
この樹の樹幹からカンボジア漆となる樹液を採取するが、生長が速く5~6年生から切り付けを行うこと
ができる。収量が多くなく、光沢が少なくて品質が劣るが、金属との結合がよく長年月褐色しない特徴がある。そのためとくに寺院の門扉・柱・天井、器物、仏像その他の塗料に用いられる。生樹はラック虫の飼育に用いられる。
15. Gulta aptera DING HOU の概要
Gulta aptera DING HOU(異名
Melanorrhoea aptera KING,Melanorrhoea inappendiculata KING,Melanorrhoea dicolor RIDLEY)はマレー半島、ボルネオ、ソコトラ島に生じ、マレーシア地域で
rengas,rengas kerbau jalang,rengas paya,
インドネシアで
rengas,ungan という。
高さ40m、直径90cmまでになる中高木ないしかなりの大高木で、板根はないかまたは小さいが高さ3mまでのものがある。樹皮は褐色を呈し、平滑ないし鱗片化する。葉は倒卵形、楕円形または倒卵状長楕円形などで長さ4~37.5cm、幅2.5~15.5cm、鈍頭、円
頭または微凹頭、基部は狭くなって翼状に葉柄に流れる。革質、通常無毛、側脉は10~28対あり、葉柄の長さは1.8~2.5cmである。
枝端付近の葉腋から長さ10~18cmの円錐花序を出し、短い分岐をもち、長さ20㎜ほどの花をつける。がくは円周開裂で、
花弁は挟楕円形、長さ11~16㎜、白色から淡紅色に変わる。雄ずいは50個ほどの多数であって、子房は無毛である。果実はほぼ球形で径は2.5~3.5cmあり、暗褐色ないし褐色を呈し、平滑である。長さ約5㎜の柄をもち、通常残存し増大する花弁の翼はつ
けない。子葉は離生する。
16. Gulta aptera DING HOU の材の組織、性質と利用
おもに農林省林業試験場組織研究室の記載(『
林業試験場研究報告、159』)によって材の組織について記す。散孔材。辺・心材の区別は明瞭で、辺材は黄白色、心材は紅色、紅褐色などで濃色の縞があり、時を経て暗色となる。木理は交走し、材に光
沢がある。材の顕微鏡的構成要素とそれらが材を構成する割合は、道管12.0%、繊維72.4%、軸方向柔組織5.0%、放射組織10.6%である。
道管はほぼ均等に散布し、単独および放射方向に2~4個が接続するが、単独のものが多い。分布数は1~3/m㎡であ
る。単独道管の断面形は円形、広卵形、楕円形で、単独道管の径は0.13~0.45㎜であるが、接続するものの中に0.03mmまでの小径のものがある。せん孔板は水平かやや傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の有縁壁孔あ交互配列をし、輪廓は不整な6角
形で径は0.006~0.011㎜、道管・放射組織間には大きい単癖孔がある。チロースを多く含んでいる。
材の基礎組織を形成する繊維は真正木繊維(または繊維状仮道管)で、長さ0.68~1.35㎜、径0.015~0.025㎜、壁厚0.0015~0.003㎜である。
軸方向柔
組織では、周囲柔組織は多くは1細胞層であるが、管孔を完全に包む鞘状をなすものは少ない。帯状柔組織は放射方向に2~5細胞層でその出現間隔はかなり狭い。柔細胞の径は0.011~0.025㎜、壁厚は0.001~0.002㎜である。
放射組織はほとんど1細胞幅
、高さ2~20細胞高であるが、水平細胞間道を内包する多列の紡錘形放射組織が出現する。放射組織の構成は同性で平伏細胞からなる。細胞内にシリカを多く含む。
水平細胞間道は紡錘形放射組織のほぼ中央に1個あり、その径は0.02~0.093㎜である。
材の気乾比重は辺材で0.51~0.72、心材で0.87~0.92を示す。材は rengas として利用される。
17.Gluta beccarii DING HOU
Gluta beccarii DING HOU(異名
Melanorrhoea beccarii ENGLER)はマレー半島、ボルネオ北部産で、マレーでは稀であるが、ボルネオでは泥炭沼沢林、
kerangas 林その他に見られる。サラワクで
regas,rengas kerangas,rengas paya という。
高さ30m、直径1.1mまでになる中高木ないしやや大高木で、板根は小さく高さ1.3mまでである。樹皮は淡褐色、紅褐色、または暗褐色を呈し、やや平滑ないしささくれ立った鱗片状を示す。葉は倒卵形または楕円形で長さ6~13cm、幅2.5~6cm、
鈍頭または微凹頭、ときにやや鋭頭を示す。通常無毛で、側脉は4~18対あり、葉柄の長さは2.5cmまである。
花は周円開裂をするがくをもち、花弁は長さ12~14㎜で白色から鈍い淡紅色に変わる。花托は球形に近く径約1.5㎜、雄ずいは多数あり、子房
は無毛である。果実はほぼ球形で径約1.5㎜、鮮紅紫色を呈し、平滑、長さ約10㎜の柄があり、下に残存して長さ6cmまでの翼に増大した5個の花弁をつける。
心材は濃紅色に暗色の縞が出る。材の気乾比重は0.50~0.71を示す。材は rengas
として利用される。
18.カーチス・レンガス
カーチス・レンガス Gluta curtisii Ding HOU(異名
Melanorrhoea curtisii OLIVER)はマレー半島産で、英名は
Curtis'rengas,現地名は
rengas,rengas marah keluang という。
高さ30m、直径80cmまでになる高木で、板根はふつう出ないかまたは小さいが、ときに高さ2.5mまでのものがある。樹皮は通常橙紅色を呈し、鱗片状またはさらにいぼ状の凹凸した面になる。葉は長楕円形または倒皮針形で長さ5~14cm、幅2.5~
5cm円頭、鈍頭または短鋭尖頭、まれに微凹頭、基部は狭くなる。革質で、無毛、側脉は6~18対あり、葉柄の長さは1.3~2.5cmである。
円錐花序の長さは10~18cmで、分枝は離れてつきその頂端に少数の花をつける。花序軸などに細軟毛がある。がくは
円周開裂をし、花弁は線状で長さ4.5~6㎜、白色または薄紫色を呈する。花托はほぼ球形になり径約1㎜、雄ずいは8~10個、子房は無毛である。果実はほぼ球形で径約1cm、長さ約10㎜の柄があり、残存して長さ9cmまでの翼に増大した紅色の花弁5個をつ
ける。子葉は離生する。樹液によるかぶれは著しい。
材の気乾比重には、辺材で0.62~0.83、心材で0.63~0.95の記載がある。材は rengas として利用される。
19.Gluta lanceolata RIDLEY
Gluta lanceolata
RIDLEYはマレー半島に稀に生ずる種類で、保護を要するとされている。大高木で、葉は皮針形で、長さ15cm、幅5cmほど、鈍頭、基部は長い葉柄に向かい次第に狭くなる。革質で、側脉は12~14対あり、葉柄の長さは3.8~7.5cmである。
長さ10cmほどの
円錐花序に蜜に花をつける。がくは筒状で片側で裂け細軟毛をもつ。花弁は線状楕円形で長さ約10㎜、内外面ともに有毛、雄ずいは花弁より長く、子房は無毛である。果実は球形で黒色を呈し、無毛、残存増大して翼となる花弁をつけない。
20.Gluta laxiflora RIDLEY
Gluta laxiflora RIDLEYはボルネオ(サラワク、ブルネイ)に生じ、現地名は
rengas という。
高さ24m、直径60cmまでになる高木で、板根は小さいか、または現れない。樹皮は銹褐色に淡灰色の斑が入り、裂片化する。葉は楕円状皮針形、まれに倒卵形で、長さ9~28cm、幅3~9cm、鋭尖頭を示す。無毛で、側脉は11~17対あり、葉柄
の長さは5cmまでである。
花は不規則に開裂するがくをもち、花弁は長さ8~9㎜、花托は円筒形で長さ2~3㎜、雄ずい5ときに6個で、子房に細軟毛を布く。果実は斜楕円形または広楕円形で長さ9cmまであり、褐色を呈し、ふけ状物を被る。不明瞭な柄が
あり、残存して増大する花弁の翼はない。子葉は不完全に合着する。
材は rengas として利用されると推定される。
21.Gluta macrocarpa DING HOU
Gluta macrocarpa DING HOU(異名
Melanorrhoea neacrocarpa ENGLER)はマレー半島、ボルネオ(サバ、サラワク、東カリマンタン)産で、マレーで
rengas という。
高さ45m、直径80cmまでになる中~大高木で、しばしば板根がよく発達して高さ6mまでになるものがある。樹皮は灰紅色を呈し、平滑または鱗片状となる。
葉は長楕円形、楕円状皮針形、倒卵状長楕円形で、長さ8~19cm、幅3~8.5cm、円頭から短鋭尖頭、基部は長く狭くなっては葉柄に流れる。薄い革質で、ほぼ無毛、側脉は10~17対あり、葉柄の長さは3cmまでである。
円錐花序は少なく、果時の長さは12.5~15cmで、花序軸に細軟毛を布く。花は周円状に開裂するがくをもち、花弁は長さ4~7㎜、白色で基部は黄色を呈する。花托はほぼ球形となり径約1㎜、雄ずいは20、ときに15~28個、子房は無毛である。果実
は球形に近く径は4cmまで、褐色ないし黒紫色を呈し、平滑、長さ3㎜までの柄をもつ。ときに花弁が残存増大して長さ1.5ときに3cmまでの翼になるが、また早く脱落するものもある。子葉は離生する。材は rengas として利用されると推定される。
22.マレー・レンガス
マレー・レンガス Gluta malayana DING HOU(異名
Melanorrhoea malayana CORNER)はマレー半島、スマトラ産で、英名を
Malayan rengas,マレーで
rengas,rengas kerbau jalang,kerbau jalang,インドネシアで
kilakapという。
高さ45m、直径12.5mまでに達する落葉大高木で、板根は高さ6mまでのものがあり、幅はやや狭くて嶮しい。樹皮は淡灰紅色、灰褐色を呈し、浅い割れ目がきわめて密にあるもの、いぼ状凹凸があって鱗片状となるものがある。葉は倒卵状
長楕円形、楕円状皮針形などで、長さ16.5~32cm、幅7~15cm、円頭、鈍頭または微凹頭、基部は次第に狭くなり、葉柄はほとんどないか、全く無柄となる。やや薄質で、若葉に細軟毛があるが、通常ほぼ無毛となる。側脉は17~27対ある。
花
は周円開裂をするがくをもち、花弁の長さは3~5㎜、花托は円筒形で長さ約1㎜、雄ずいは5個あり、子房は無毛である。果実はほぼ球形または扁球形で径は約3cm、褐色から暗褐色を呈し、平滑で、長さ15㎜までの柄をもつ。ときにその下に残存増大して
長さ2cmまでの翼になった5個の花弁をつける。翼は桃紅色を呈する。子葉は離生する。
材の気乾比重に0.58~0.84の記載がある。材は
rengas として利用されるものと推定される。
23.Gluta oba DING HOU
Gluta oba DING HOU(異名
Melanorrhoea oba MERRILL)はボルネオ(サバ、サラワク)産で、現地名を
rengas,obaという。
高さ30m、直径60cmまでになる高木で、板根は高さ1.2mまでとなる。樹皮は灰色または褐色を呈し、鱗片状となる。葉は楕円形、広楕円形または倒卵形で、長さ5~14cm、幅2~8cm、鈍頭、ときに僅かに鋭頭を示す。無毛で、側脉は9~11対あり、葉柄の
長さは1.5cmまでである。
花は周円開裂をするがくをもち、花弁は長さ6~7㎜で白色を呈する。花托は楕円形で長さ約2㎜、雄ずいは10個あり、子房は無毛である。果実は球形に近く径は4cmまで、暗褐色を呈し、長さ18㎜までの柄をもつ。残存増大して翼となる花弁をつけな
い。子葉は離生する。
材は rengas として利用されるものと推定される。
24.Gluta pubescens DING HOU
Gluta pubescens DING HOU(異名
Melanorrhoea pubescens RIDLEY)はマレー半島とスマトラに産し、マレーで
rengas,sisek tengiling,sumpah biawak,kayu merah
k'lueng という。
高さ45m、直径1.1mまでになる中~大高木で、しばしば樹幹基部に溝があり、またときに高さ2mの板根が現れる。樹皮は褐色を呈し、裂片化または鱗片化が著しい。葉は楕円形または倒卵形で長さ9~17cm、幅3.5~8.5cm、円頭また
は微凹頭、基部は楔形を示す。革質で、下面とくに脉上に細軟毛を布き、側脉は11~18対、葉柄の長さは2.5cmまでで細軟毛をもつ。円錐花序は長さ10cmほどで、1~2個の花をつける分岐があり、花序軸などに細軟毛を布く。花は周円開裂のがくをもち、
花弁の長さは9~13㎜で白色を呈する。花托はほぼ球形で径は約2㎜、雄ずいは多数で有毛、子房にも踈毛がある。果実は横長の楕円形で、高さ2.5cm、横の長さ4.5cmまで、平滑で、長さ15㎜までの柄をもつ。通常残存して増大する花弁をつけないが、とき
に革質で長さ2.5cmまでの翼になったものをもつものがある。子葉は離生する。
材は rengas として利用されると推定される。
25.Gluta rostrata DING HOU
Gluta rostrata DING
HOUはスマトラ産で、インドネシアで
rengas,rengai,rengeという。高さ20m、直径65cmまでになる高木で、高さ2mまでの板根が出る。樹皮は灰褐色を呈しで粗い。葉は倒卵状長楕円形、倒皮針形、ときに楕円形で、長さ7.5~16cm、幅2.5~6.5cm、鈍頭、円
頭または微凹頭を示す。無毛で、側脉は9~14対、葉柄の長さは1.75cmまでである。
花は周円開裂をするがくをもち、花弁の長さは7~12㎜、花托はほぼ球形で径は約1.5㎜、多数の雄ずいがあり、子房は無毛である。果実は球形で約4cmまで、褐色
を呈し皮目を密布する。無柄で、残存増大して翼となる花弁をつけない。子葉は離生する。材は
rengas として利用されると推定される。
26.Gluta rugulosa DING HOU
Gluta rugulosa DING HOUはボルネオ産で、インドネシアで
hemboja,umpoh
という。高さ30mまでになる高木である。葉は倒卵形、倒皮針形で長さ6~27.5cm、幅4.5~10.5cm、円頭ときに微凹頭を示す。無毛で、側脉は11~21対あり、葉柄の長さは1cmまで、または無柄である。
花は周円開裂をするがくをもち、花弁の長さは7.5~9㎜、花托はほぼ球形で径は約1.5㎜、雄ずいは多数、子房にふけ状物を被る。果実は球形で径は3.5cmまで、褐色で皮目を密布する。無柄で、残存して増大し長さ3cmまでの翼になった花弁をつける。
子葉は離生する。材はrengas として利用されると推定される。