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平井信二樹木研究

10.tulip oakの類
 オーストラリアでtulip oakと呼ばれるものは以前Argyrodendron属とされていた3種または4種で、現在はHeritiera属で扱われるが、緒方健氏は材の組織が他のHeritiera属のものとかなり異なっていることを指摘している。
(1)Heritiera actinophylla KOSTERMANS
 異名にArgyrodendrom actinophyllum EDLIN、Tarrietia actinophylla BAILEYがあり、オーストラリアではblush tulip oak、crow's foot elm、black jack、booyong、black booyongの名がある。オーストラリア東北部・東部(クィーンスランド、ニューサウスウェールズ)の海岸地域に産し、高さ50m、直径150cmまでになる大高木である。樹皮は灰色、褐色からほとんど黒色に近いものまでで細かい溝が入る。葉は5(~9)小葉 からなる掌状複葉で、小葉は皮針形から楕円形、長さ8~13cm、幅2~3cm、下面に鱗状毛とともにdomatia(虫の寄生による腺体)をもつ。果実は歪んだ卵形から楕円形で径0.5~1cm、大きなプロペラ状で長さ6cm、幅2cmまでの翼を備えている。
 辺心材の境界は不明瞭でしばしば辺材の幅がきわめて広い。心材は淡褐色、木理はふつう通直、肌目は粗い。丸太の中心部分に暗褐色のblack heartをもつことがある。材は重硬で気乾比重0.81、0.85の記載がある。材質の例をあげると縦圧縮強さ673kg/cm2、曲げ強さ1,265kg/cm2、曲げヤング係数21.4×10(4)kg/cm2、アイゾッド衝撃値194kg・m、ヤンカ硬さ990kgがある。心材の耐朽性は屋外使用 では不充分で、また薬剤注入は困難である。用途は建築構造材、フローリング、パネル、家具、柄材などの器具、合板などで、また曲木にも用いられる。
(2)Heritiera trifoliolata KOSTERMANS
 異名にArgyrodendron trifoliolaturn F.MUELLER、Tarrietia argyrodendron BENTHAMがある。オーストラリア名はbrown tulip oak、crow's foot elm、black starwood、ironwood、starwood、silver tree、white booyongなど。分布はオーストラリア北部・東部(クィーンスランド、ニューサウスウェールズ)、ニューギニア、モルッカ諸島、スラウェシにわたる。大高木で3小葉からなる掌状複葉をもつ。
 心材は褐色、紅褐色で丸太中心部分にblack heartをもつものがある。木理は直通または交走、肌目はやや粗い。おおまかな波状紋が現われるものがある。材の顕微鏡写.真があるので、おもにそれに基づいて記載する。道管は単独および2~3個が放射方向に接続、分布数は接続道管群を1個と計算して1 ~3/mm2、径は0.10~0.26mm、単せん孔、せん孔板は水平に近い。統維が材を構成する割合は比較的多く、繊維状仮道管(パブア・ニューギニア産材の報告による)で径0.02~0.03mm、壁厚0.003~0.005mmである。軸方向柔組織には短接線柔組織(ときに散 在する柔細胞に移行)、周囲柔組織から翼状ないし連合翼状柔組織に発達したもの、および帯状柔組織がある。短接線柔組織は放射方向に1~2細胞層、接線方向に2~7細胞連なるが、Heritiera属の他種にくらべると少ないようである。周囲柔組織は0~3細 胞層で多くは1~2細胞層、帯状柔組織は放射方向に2~9細胞層で輪郭は不規則になって波状をなす。柔細胞の径は0.02~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mm。ときに中に結晶を含む。放射組織は1~8細胞幅、3~70細胞高で単列のものが少ない。上下両端の1~3 細胞層および周縁はやや不完全であるが大型の平伏細胞、方形または直立細胞からなる鞘状部である。多列部の他の部分は平伏細胞からなるが、形状にいくらか大小がある。細胞の内容に濃色の物質を含むものがある。古野毅氏は軸方向傷害細胞間道の存 在を報告している。
 材の気乾比重に0.85、0.86がありやや重硬である。材質数値の例をあげると縦圧縮強さ704kg/cm2、曲げ強さ1,204kg/cm2、曲げヤング係数18.4×10(4)・kg/cm2、アイゾッド衝撃値153kg・m、ヤンカ硬さ750kgがある。乾燥には割れ、変色を防ぐため注意 が必要で、加工はやや困難、屋外での耐朽性は高くない。一般構造材および建築内装材、家具、器具、車両内装材などに用いられる。
(3)Heritiera peralata KOSTERMANS
 異名にArgyrodendron peralatum EDLIN ex I.H.BOASTarrietia argyrodendron BENTHAM var.peralata BAILEYがあり、オーストラリア名はtulip oak、red tulip oakである。オーストラリア東北部(クィーンスランド)の海岸地域に分布する。高さ55m、直径150cmまでになる大高木で、樹皮は淡紅褐色、ときにやや條溝がある。葉は3小葉からなる掌状複葉で小葉は皮針形、長さ9~16cm、幅1.5~4.5cm。果実は球形に 近く径1~1.5cm、翼は長さ7~12cm、幅3~5cmある。
 心材は淡紅色~紅褐色で、木理はふつう通直、肌目は粗い。材質数値の例をあげると気乾比重が0.80、縦圧縮強さ622kg/cm2、曲げ強さ1,285kg/cm2、曲げヤング係数15.3×10(4)・kg/cm2、ヤンカ硬さ920kgがある。乾燥には注意が必要で加工は通常困難 、ただしロータリー切削は良好という。心材の耐朽性は屋外使用では充分でない。建築構造材および内装材、家具、器具、合板などに用いられる。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る
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