中川木材産業は2025万博の会場整備参加サプライヤーですcExpo 2025
アメリカ合衆国 United States of America
アメリカ館 ― 木と光が語る、創造と革新のパビリオン
2025年大阪・関西万博のアメリカ館は、「想像力のキューブ」と呼ばれる宙に浮かぶ構造体と、三角形平面の2棟の建物で構成された、モダンで象徴的な建築です。テクノロジー、宇宙探査、文化、教育、起業家精神といった米国の強みを表現するこのパビリオンは、木材を中心とした素材構成と日本文化へのオマージュを融合させています。
木材と素材:日米の伝統が出会う建築
アメリカ館の外観と内部には、木材が美しく、かつ機能的に使用されています。特に以下の3つの素材(樹種)が、建築の基調となっています。
◎ アラスカン・シダー(ベイヒバ) Callitropsis nootkatensis
ウッドデッキ材として使用。会場の中で最も広いと思われます。明るくやわらかな黄褐色で、歩行者に温かみと落ち着きを与える。
高耐久・高耐朽性で知られ、神社仏閣や浴室材にも用いられることの多い高級木材です。
日本での流通名は「ベイヒバ」。ヒバに似た香りと抗菌性を持ちます。
◎ ダグラスファー(米マツ) – Pseudotsuga menziesii
黒く着色された壁面ルーバーや外装ファサードに用いられ、建物の輪郭と陰影を強調。
直線的な木目が強調され、光と影が動的に変化する。
モジュール化された木製外装は再利用も考慮されており、解体後は大阪市内の公共空間などに転用される予定。ダグラスファーは都市部の住宅の梁の部分に利用されてきた木材で日本での歴史は古いですし、多くの木材会社で取り扱っています。
◎ ポリカーボネート・クラッディング
中央の「想像のキューブ」の外装に使用。
昼は空の明るさや雲の動きを映し、夜はLEDスクリーンの光を拡散して幻想的な雰囲気を演出。
木材の選定とデザインは、日本の「侘び寂び」に着想を得ており、会期中にあえて風化・退色させることで、自然素材の美しさと移ろいを体現しています。
建築と体験の概要
設計:Trahan Architects(トレイハン・アーキテクツ、米・ニューオーリンズ)
延床面積:約2,900㎡
構成:三角形平面の建物2棟と中央の吊り下げ式キューブ
正面ファサードに巨大LEDスクリーン(6.5m × 26m)を2面設置
キューブ内は没入型展示:宇宙飛行をテーマに、映像・光・音で体験型演出
スロープ状の展示通路により、アクセシビリティと移動体験を向上
素材の一部は東京オリンピック施設の再利用材も活用
中庭の木のモニュメント ―「炎と再生」:木と文化が語るもう一つの物語
アメリカ館の体験は、館内展示だけにとどまりません。パビリオンの中庭には、手嶋保建築事務所の設計による木造モニュメント「Looking, After the Fires(炎と再生)」が設置されており、来場者にもう一つの深い物語を届けています。
この木のモニュメントは、日本の「火の見櫓」をモチーフにデザインされており、アメリカと日本の文化における「火」や「山火事」への向き合い方を出発点に、破壊と再生、喪失と希望の共存という普遍的なテーマを表現しています。
使用されている木材は、和歌山県田辺市の山長商店の無節ヒノキ(紀州材)。日本の伝統的な木造技術を活かし、すべて手刻みで加工された構造材が現地で組み立てられています。施工は、事前に工場で仮組みされたパーツを使用し、現地ではわずか3時間ほどで完成。アメリカ館の建築デザインに調和する、静かで力強い存在感を放っています。
このプロジェクトは、日米友好基金(Japan–U.S. Friendship Commission)によるアーティスト交換プログラムの一環で実現したもので、サンフランシスコ拠点の設計ユニットSAW.incとの協働により完成。芸術、建築、環境、文化的対話が結びついたこの作品は、来場者に静かに語りかけるように立っています。
中庭は自由に出入りできる空間となっており、入館せずともこの木のモニュメントを間近で鑑賞することができます。パビリオン本体が未来の革新を象徴しているとすれば、この「炎と再生」は、自然と人、過去と未来のつながりを見つめ直す場となっています。
まとめ
アメリカ館は、革新性と伝統、そして木のぬくもりを融合した建築であり、床にはベイヒバ(アラスカン・シダー)、壁にはダグラスファー(米マツ)といった北米産木材が使われています。さらに中庭には、日本の紀州産ヒノキ材を用いた木造モニュメント「炎と再生」が静かに佇み、日米の文化と自然観の交差点を象徴しています。訪れた人々は、木の香りや風合い、光と影の演出に包まれながら、アメリカの未来志向のビジョンと精神、そして自然との新たな関係性に触れることができるでしょう。