ヨルダン館を語る上で欠かせないのが、館長であり共同設計者の アフマド・ジョブラーンさん(30歳) です。2019年に留学のため来日し、日本各地で交流を深めてきました。特に奈良県 上北山村 との縁は深く、早稲田大学在学中にゼミ活動の一環で初めて訪問。ヨルダンにはない深い森や杉の木に感動し、村の人々から木材の扱いや機械の使い方を学びました。また「フォレストかみきた」を常宿とするなど、住民との交流を重ねた経験が、今回のパビリオン設計に大きな影響を与えました。
ヨルダン館の円形シアターを囲む構造体には、上北山村から切り出された約290本の杉材 が使われています。伐採・集積・運搬には公式記録の通り 上北山村小橡自治会の村民 も参加しました。皮むきなどの加工は、黒滝村の 株式会社徳田銘木 が担当。研究熱心で新しい取り組みに積極的な同社の社長のもとで、上北山村の杉材伐採にも様々な提案がなされたと考えられます。
伐採から加工の過程で虫が付いた痕跡も見られますが、これは自然な姿としてあえて残されています。アフマド館長の「恩返し」の思いと共に、「自然をそのまま生かす」考えに基づき、そのまま利用されているのです。こうして実現したヨルダン館は、村とヨルダンの未来をつなぐ象徴的な取り組みとなりました。実際、万博を通じて村民見学会や交流も行われ、8900km離れたヨルダンと奈良の小村の間に新しい絆が生まれています。
ヨルダン館の最大の見どころは、映画『アラビアのロレンス』や『スターウォーズ』のロケ地として知られる砂漠 「ワディ・ラム」 から運ばれた 赤い砂 約22トン です。 日本の検疫基準に従い、一度すべて洗浄・天日干しを行い、微生物やバクテリアを取り除いた後、スタッフがバケツで運び、手で均しました。限られた5人のチームによる大仕事で、笑い話のように語られるものの、実際には大変な重労働でした。
直径11mの円形シアターでは、この砂の上に腰を下ろし、360度スクリーンに映し出されるヨルダンの歴史や自然を体感できます。砂漠の星空を見上げるような演出や、「未来を紡ぐ(Weaving Possibilities)」をテーマとした映像が、来場者を没入体験へと誘います。
時空の回廊:土壁や織物、音のインスタレーションで古代から現代へと時代を遡る。
文明のシアター:杉の構造体と赤い砂に囲まれ、360度映像を鑑賞。 交流ゾーン:サンドアート体験、工芸品販売、ヨルダンコーヒーやミントティー、デーツシェイクの提供。 死海スパ(2階):死海の塩や泥を使ったハンドマッサージ。 織りラボ:ヨルダン女性によるフェルト玉インスタレーションを展示。
ヨルダン館は「素材・記憶・持続可能性」をテーマに、砂・塩・羊毛・杉材など自然素材を用いて構成されています。設計はジョブラーンさんとシファ・ズグール氏、日本側は古谷誠章氏とNASCAが担当。施工は大広・日展、木材加工は徳田銘木が担い、日本とヨルダンの学生・職人が協働しました。
ヨルダン館は、ワディ・ラムの赤い砂 と 奈良・上北山村の杉材 という「砂漠と森」の象徴を融合させた特別なパビリオンです。アフマド・ジョブラーン館長の個人的な体験と交流が、国境を越えた「未来を紡ぐ」物語へと結実しました。来場者は五感を通じてヨルダンの歴史・文化・自然を体験でき、同時に日本の小さな村との温かなつながりを感じることができます。