チェコ共和国は、かつてスロバキアとともにチェコスロバキアとして存在し、1993年に平和的に分離しました。歴史的にはオーストリア帝国の一部であり、首都プラハを中心に工業や芸術が発展。画家アルフォンス・ミュシャをはじめとする美術やガラス工芸で知られ、現代においても創造性豊かな国として世界から注目されています。
1970年の大阪万博では「チェコスロバキア館」として出展。前回の1967年モントリオール万博でも人気投票1位となるなど、チェコスロバキアのパビリオンは常に高い評価を受けてきました。
大阪万博でのパビリオンは平屋構造ながら、独自のデザインで注目を集めました。T型梁による2層のラメラ構造(格子状の架構)に泡コンクリートを組み合わせたもので、外観はラメラとガラスだけで構成された芸術的な印象を与える建築でした。
今回の万博では、チェコ共和国単独の出展として、革新的な木造建築が登場します。建物全体をらせん状の回廊が貫き、訪問者は歩きながら4階相当の高さへと上っていきます。この構造は「人生の旅路」を象徴し、木のやさしさと力強さを全身で感じられる設計です。
チェコ国内の森林で育ったスプルース(ヨーロッパトウヒ)やマツを原材料とするCLT(直交集成板)パネルを使用。鉄骨を用いず、高さ約17mを実現しています。
CLTの使用量は約1,600㎥にのぼり、国内最大級の木造建築。155点に及ぶ木材部材はすべて形状が異なり、精密な加工と高い施工技術が求められました。
構造材は天井や壁を現し仕上げとし、自然光と調和しながら木の温かみを表現しています。
使用する木材はPEFC認証を取得。森林再生の循環を意識し、CLTはチェコでプレカット加工された後、日本へ船便で輸送。現場での廃材やCO₂排出を抑える取り組みがなされています。
建設は大末建設と、チェコのCLT専門企業(A2Timber社、Stora Enso社など)が連携。数ミリ単位での高精度な組立てが行われました。
地震や台風の多い日本に対応するため、CLTの耐久性試験を実施。一部に鉄骨を補強材として使用し、安全性も確保しています。
設計はApropos Architects(チェコ)とKINO architects(日本)の共同
螺旋構造とガラスファサードによる動きのある造形
内壁には、アルフォンス・ミュシャに着想を得た全長250mのアート壁画を展開
天井には、チェコ伝統のウランガラスによるアート作品を展示。木とガラスの素材の対比が美しく調和
チェコ館は解体・再構築が可能なモジュール構造として設計されており、万博終了後は文化施設や教育施設などへ再利用される予定です。「木が人と出会う建築」として、新たな地で物語が引き継がれていきます。
チェコパビリオンは、単なる展示建築ではなく、「木の可能性」や「持続可能な社会のビジョン」を表現するメッセージ建築です。 未来の建築がどうあるべきか――そのヒントを、どうぞこの空間から感じ取ってください。