中川木材産業は2025万博の会場整備参加サプライヤーですcExpo 2025
フィリピン共和国 Republic of the Philippines 
フィリピンパビリオン ― 木と人が織りなす、多様性の空間

1970年万博でのフィリピンパビリオン
私のフィリピンとの出会い
フィリピンは、私にとって初めて訪れた海外の国です。1970年東南アジアの熱帯雨林研修として、フィリピン、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、香港を巡る約2週間の団体旅行に参加しました。その最初の地がフィリピンでした。
マニラで乗り換え国内線でダバオ空港に降り立った瞬間、目の前に広がった景色に驚かされました。灰色の世界から抜け出し、まるで総天然色の映画のような鮮やかな緑と光。特に、樹木の緑が目に染み入るように感じられ、私はその瞬間から「海外旅行が好きになった」のです。以後も経済団体などで何度か訪れることがあり、インドネシア語と似た言葉が多いこともあり、親しみを感じてきました。
1970年の大阪万博でも、フィリピン館は木をふんだんに使った印象的な建築でした。ナラやタンギールなどの現地産木材を構造と外装に採用し、展示そのものが建築に取り込まれていました。船首・貝殻・木の葉といった形のイメージが重なるユニークな外観、乳白色のカピス貝を格子にはめ込んだ天窓、外光に包まれた明るい内部空間──私はこのパビリオンからもまた、木と建築の魅力を学んだように思います。
現代のフィリピンパビリオン(2025年)
2025年の大阪・関西万博に登場したフィリピンパビリオンのテーマは「WOVEN(織りなす)」。
7,641の島々から成る多民族国家フィリピンの自然・文化・人々を象徴するように、伝統工芸の手織り織物と、木質素材を織り合わせる建築がつくられました。特に印象的なのは、18の地域から集められた212点の手織りタペストリーパネルと、1,000枚を超える手編みのラタンパネル。これらを建物のファサードに組み込み、職人たちの手仕事が巨大な建築として現代に昇華されています。
木材と建築の工夫 ― CLT・ラタン・足場の活用
このパビリオンはCLT(直交集成板)構造体を用いた仮設建築で、解体・再利用を前提としています。設計・施工は、浅川組と西尾レントオールの共同体制で行われ、木材を中心とした資材調達や設計支援に日本の企業も深く関与しています。
主な木材・建築特徴
CLTパネル(一般流通木材)による大スパン構造。足場材を構造体に転用し、施工・解体の合理化を実現。建築の外皮として、ラタン(籐)を使用。ラタンは木質のつる性植物で、建物全体に有機的な柔らかさを与えています
ファサードの織物パネルは、縦糸と横糸を籠状に編み上げた構造で、伝統とモダンを結びつける象徴的デザイン
この「木をどう使うか」という視点において、単なる資材ではなく文化や時間、循環性の象徴としての木が、明確に意識されている点に深く共感を覚えます。
パビリオンの展示と体験
パビリオン内部は「織物の森」ともいえる空間で、訪れる人々はさまざまな地域の織物や文化に包まれるような体験ができます。
自分の姿が自然のモチーフに変化し、大きなスクリーンに連動して動く姿は興味深いです。
また伝統舞踊やクラフト紹介のライブパフォーマンスがあります。
AIフォトブース、ギフトショップ、マッサージや軽食を楽しめるウェルネスエリアなども併設しています。
建築がメッセージを語る
建築家や構造設計者たちは、「展示のための箱ではなく、建築そのものが展示であること」を意識して設計しました。CLTによる仮設構造体に、手織りの布、ラタン、足場──あらゆる要素を再利用・再構成可能なパーツとして設計に組み込み、解体後の未来も見据えた建築手法を実践しています。
最後に
私にとってフィリピンは、初めて「木と熱帯の空間」に魅せられた国です。
2025年のフィリピンパビリオンは、その記憶に重なりながらも、新しい建築の思想と技術で未来を見せてくれました。
木は文化と地域を結ぶ織り糸のようなもの。フィリピンのパビリオンは、まさにそのことを教えてくれる空間でした。