中川木材産業は大阪・関西万博の会場整備参加サプライヤーです。 cExpo 2025
日本万国博覧会と木のかかわり
アラブ首長国連邦
United Arab Emirates
アラブ首長国連邦パビリオン ― ナツメヤシと「聖なる建築空間」
万博の会場で一番初めに入館したのがこの館でした。最初に目を奪われたのが、パビリオンの外観でした。ガラス越しに見える無数の巨大な柱は、まるで神殿のような印象で、近づいてよく見るとそれらはすべてナツメヤシの葉軸(ラキス)で覆われていました。
この柱は全部で90本。一本一本に葉軸を巻き付けて作られており、その数はなんと200万本以上。国内だけでは賄えず、周辺のアラブ諸国からも材料の提供を受けたとのことで、まさにこの助け合いの精神そのものが万博の理念を体現しています。
パビリオンに足を踏み入れると、まず漂ってくるのが落ち着いた香り。異国の空間にいるというより、なぜか懐かしい、心の奥をくすぐるような香りに包まれました。そして何より驚いたのは、空間の「高さ」です。16メートルの天井まで伸びる柱に囲まれていると、どこか守られているような感覚すら覚えました。
私は祖母の代からのキリスト教の家庭に育ち、小中学生のころは日曜学校に通っていました。聖書によく登場する「ナツメヤシ」は、その名だけは身近でしたが、実際に初めて食べたのは40歳近くになってからのことです。今ではスーパーでも買え時々購入しますが、こうしてパビリオンの中や外に当たり前のように実(デーツ)があるのを見ると、まるで聖書の世界に入り込んだような不思議な感覚になります。外に敷き詰めてある実を、思わず拾って水で洗って食べたくなるほどでした。
この空間は、UAEの伝統建築「アリーシュ(Areesh)」を現代建築に融合させたものです。アリーシュは、ナツメヤシの枝葉で編んだ壁や屋根を木の骨組みに取り付けて造る建物で、風通しが良く、暑い気候に適したシンプルかつ機能的な様式。砂漠の暮らしに根差した知恵が詰まっています。パビリオンでは、その建築思想が見事に再現され、素材の温もりや自然との共生が空間全体に感じられました。
館内では、伝統文化だけでなく宇宙開発、再生可能エネルギー、医療など、UAEの先進的な側面にも触れることができます。特に、太陽の動きに合わせて回転するソーラーパネルや、羊やラクダの毛を用いた柔らかな織物など、伝統とテクノロジーの融合には強い印象を受けました。また懐かしい1970万博のアブダビ館の模型が置いてあります。先の大阪万博にはアブダビとして出展し、その後1971年にアラブ7カ国(アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ラス・アル・ハイマ、フジャイラ、アジュマン、ウンム・アル・カイワインの7つの首長国)が1つになってアラブ首長国連邦(UAE)が成立。そして今回はその連邦での参加になります。
奥にあるシアターでは、3面スクリーンに囲まれながら、現代UAEの人々の暮らしと自然とのつながりを描くドキュメンタリー映像を鑑賞できます。スクリーンの真ん中には大きな絨毯が敷かれ、そこに座っていると、まるで「オアシス」に身を置いているような心地よさがありました。彼らにとってのオアシスとは、単なる水辺ではなく、「人が安心してくつろげる場所」なのだそうです。
レストランではデーツとガーワコーヒーのおもてなしから始まり、スパイスでマリネした魚料理やふわっとした中空のパン「カミール」など、本場の味も体験できます。デーツの実の甘さと香ばしいコーヒーの組み合わせは、まさに中東文化そのものでした。
パビリオンを出るころには、ナツメヤシがただの用材や果実ではなく、この国の暮らし、建築、精神性を支える「聖なる木」であることを肌で感じることができました。静かで、どこか懐かしく、そして心が満たされる——そんな空間体験でした。