2025年大阪・関西万博では、会場の中央に位置する大屋根リングの内側に2つの「サテライトスタジオ」が設けられています。これは地元テレビ局が放送や中継を行うための拠点として機能する施設で、「西」と「東」にそれぞれスタジオが配置されています。西側には朝日放送テレビ(ABC)、関西テレビ放送(カンテレ)、テレビ大阪の3局が入居しており、放送活動だけでなく、訪れる来場者にとっても立ち寄れる場所として設計されています。
この「サテライトスタジオ西」は、福島県大玉村を拠点とする建築家・佐藤研吾氏(佐藤研吾建築設計事務所)と、郡山市の建設会社・おおほり建設によって設計・施工されました。施設は木造平屋建て、延床面積は約144平方メートルで、構造材には福島県産の木材がふんだんに使用されています。基礎には重量250~350kgの丸太63本を使い、コンクリートを一切使用せず、分解・再利用可能な構造を実現。会期終了後には解体され、部材は再び福島県内の地域施設に移築される予定です。
施設の設計コンセプトは「開かれたテレビスタジオ」。会場内のウォーターワールドに面し、海を望む大きなガラス窓を持つ建築は、放送設備でありながら来場者が気軽に立ち寄れる場としても機能します。スタジオ正面には小さな広場が設けられ、訪れる人々の「居場所」としての役割も担っています。
施工にあたっては、福島県内の複数の職人や大学生も関わり、塗装には日本大学工学部の学生が柿渋塗料を用いて参加しました。部材は地元で仮組み・塗装された後、会場に搬入され、2024年8月末の完成を目指して工事が進められました。
このサテライトスタジオは、単なる万博の放送設備にとどまらず、「建てて終わり」ではない持続可能な建築のモデルとしても注目されています。福島発の技術と木材、そして人の手によってつくられたこの施設は、会期中は放送を通じて情報を発信し、会期後は地域資源として第二の役割を担っていきます。
未来に向けて循環する建築の在り方を体現する「サテライトスタジオ西」は、まさに万博の理念と調和した、新しい公共空間のかたちといえるでしょう。