三菱未来館(Mitsubishi Pavilion)
基本コンセプト
テーマは「いのち輝く地球を未来に繋ぐ」。
深海から宇宙へと至る“いのちの旅”を通じて、「いのちの起源・広がり・未来」を体感できる構成です。建物自体が“地上に浮かぶマザーシップ”をイメージして設計され、訪れる人々が地球と生命のつながりを感じ取るよう工夫されています。
建築とデザインの特徴
設計は三菱地所設計、施工は竹中工務店・南海辰村建設・竹中土木JV。
外観は楕円・ひし形・長方形の三つの幾何形体で構成され、それぞれを「生命」「地球」「人間」に見立てています。正面を持たない全方位型デザインで、空中に浮かぶような構造を実現。杭基礎を用い、地面との接触を最小限にした“環境負荷の少ない構造”となっています。
木材の利用と構造的意義
三菱未来館は鉄骨と木のハイブリッド構造で、外装下地には構造用集成材が使用されています。
この木材部分は外観のひし形部西側に設けられ、金属的な足場材やポリカーボネートの間から木の質感が透ける設計で、工業素材との対比が印象的です。
木材の使用量は約38㎥。炭素固定量は約29t-CO₂で、これは一人あたりの年間CO₂排出量に換算して約16年分に相当します。
木の構造材はJAS認定の構造用集成材が用いられ、強度・含水率・ホルムアルデヒド放散量などが規格で定められた環境配慮型の材料です。
この木材は展示終了後に解体・選別され、木粉化して樹脂と混合し、3Dプリント技術により再生建材へと転換されます。再生された資材は2027年横浜市開催の「GREEN×EXPO 2027」三菱グループ展示施設外装に再利用される予定です。
まさに“木のいのちを未来へつなぐ”象徴的な取り組みとなっています。
環境配慮と「ショート・サーキュラー建築」
設計思想は「小さな資源循環」。
建設から解体までを一体的に設計し、使用資材の多くを再利用可能なものに限定しました。
仮設資材(単管パイプ・足場板・ポリカーボネート板・工場扇・メッシュシートなど)を仕上げ材として転用し、建築後にも再び使えるよう配慮しています。
また、空調エリアを最小限に抑え、縁側のような半屋外空間を多用。照明も内部から外へ柔らかく漏れる設計とし、「光と影のグラデーション」による日本的な奥行きを演出しています。
建築データ
項目 | 内容 |
設計監理 | 三菱地所設計 |
施工 | 竹中工務店・南海辰村建設・竹中土木JV |
構造 | 鉄骨造、一部木造 |
基礎 | 回転圧入鋼管杭 |
階数 | 地上2階・地下1階 |
延床面積 | 2,075.83㎡ |
木材使用量 | 約38㎥(炭素貯蔵量 29t-CO₂) |
展示と動線構成(概要)
- ・地下:ウェイティングパーク(日除け・避難空間)
- ・1階:プレショー(導入映像)
- ・2階:メインショー(深海から宇宙へ向かう没入体験)
- ・最後に浮遊構造のサンカクパークで余韻を楽しむ空間
印象と感想
三菱未来館は、仮設建築でありながら高度な木材利用と循環設計思想を融合させた点で特筆されます。
“木のいのちを未来へつなぐ”という理念を、設計・素材・解体後の再利用まで一貫して具現化した、新時代の環境建築モデルといえます。