いのちの遊び場 クラゲ館
概要
「いのちの遊び場 クラゲ館」は、音楽家・数学研究者でありSTEAM教育者の中島さち子氏がプロデュースし、建築家・小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所)がデザインした、テーマ事業〈いのちを高める〉のシグネチャーパビリオンです。
生命の多様性と創造性をテーマに、「揺らぎ」「余白」「つながり」をキーワードとして設計されました。1歳から120歳までが楽しめる“いのちの遊び場”として、音・光・映像・身体表現を融合させた体験空間です。
建築・構造
クラゲ館は、丘のような地形「プレイマウンテン」の上に建ち、地上2階建て。
1階は暗がりの展示空間「いのちの根っこ」、2階は半屋外の「いのちのゆらぎ場」と呼ばれる開放的な広場です。構造は鉄骨造を基本としながら、屋根下には木材が織り成す網状構造が広がり、クラゲの触手のように外へ伸びています。
屋根は白い膜材(約30m×30m)で構成され、日射抑制の機能とともに、クラゲの傘のような「揺らぎ」を表現。膜下には鉄骨トラスと木パーツが組み合わされ、その一部はロープで吊るされる独特の構成となっています。木パーツの固定にはクランプとロープを使用し、溶接を避けることで解体・再利用が容易な設計です。これにより「再生する建築」として会期後の移築・リユースが可能です。
木材の特徴と「創造の木」
クラゲ館の象徴は「創造の木」と呼ばれる巨大な木組み構造。
4600本以上の吉野杉の角材を粘菌アルゴリズムに基づいて配置し、生命の成長や揺らぎを可視化しています。木材は直方体形状で長さ6種類に統一され、鉄骨トラスにグローブジョイントを介して接合。木材同士はロープで柔らかく結ばれ、光と風に呼応して微妙に揺れるよう設計されています。
この「創造の木」は単なる構造物ではなく、音と光のセンサーを備え、触れると周囲の照明と音が反応するインタラクティブな木の彫刻です。
夜間は屋根全体が多彩な照明でライトアップされ、クラゲのような幻想的な光景が広がります。
設計・施工体制
- プロデューサー:中島さち子(音楽家・数学研究者・STEAM教育者)
- 建築設計:小堀哲夫建築設計事務所+アラップ
- 実施設計・施工:大和ハウス工業・フジタ
- 現物協賛:大和ハウス工業
設計段階では、3DモデルやBIMを活用し、複雑なトラス形状・曲面構造・木パーツ配置を精密に解析。ロープ接合や木材のたわみを含む「揺らぎ設計」は、構造解析・応力計算・施工誤差の検証を繰り返して実現されました。
冷水管による放射冷却、膜屋根の通風設計、調湿空調システムなどにより、半屋外空間ながら快適な環境を確保しています。
コンセプトと体験構成
クラゲ館は「創造性の民主化」を理念に掲げ、音・光・身体表現を通じて“いのちの面白さ”を体感できる場。
1階(予約エリア):静寂と映像に包まれる没入空間。クラゲが光り泳ぐ360度ビジュアルシアター。
2階(自由エリア):楽器演奏・リボンのメッセージ・音と動きのインタラクティブ体験。
バーチャルクラゲ館:DNPによるXR空間展示。クラゲ館と同コンセプトのバーチャル体験が可能。
建築の理念と未来
クラゲ館は、構造やデザインだけでなく、**「人と建築の共創」**を目指した実験的建築。
小さな部材が集まり、つながり、揺らぎながらひとつの生命体のように形づくられるこの建物は、まさに「生きている建築」です。
会期後には部材が再利用され、次の“いのち”へと受け継がれます。
まとめ
- 建築:鉄骨+木材混構造(膜屋根+ロープ吊構法)
- 木材:吉野杉4600本以上、ロープ結合による再利用設計
- 施工:大和ハウス・フジタ/設計:小堀哲夫+アラップ
- コンセプト:「創造性の民主化」「いのちの揺らぎ」「再生する建築」
- 特徴:冷却床・通風膜屋根・照明演出・音と光の共鳴体験