2025年大阪・関西万博では、世界各国から集まったアーティストによる21点のパブリックアートが会場内に展示され、来場者に文化的な彩りと交流の機会を提供しています。その中でもひときわ注目を集めているのが、札幌出身で北海道白老町を拠点に活動する彫刻家・国松希根太さんによる木彫作品《WORMHOLE(ワームホール)》です。
《WORMHOLE》は、北海道大学の雨龍研究林に自生していた推定樹齢300年のミズナラの巨木を素材とし、高さ4メートルにもなる大型の木彫作品です。苔やシダなど多様な植物と共生しながら、長い年月をその地で生きてきたこの木は、まさに土地の歴史と時間を見つめ続けてきた“証人”ともいえる存在です。国松さんはこの木の伐採の瞬間から立ち会い、冬の間、自身のスタジオでじっくりと向き合いながら彫刻として命を吹き込みました。
作品には、かつてこの木に共生していた植物を一部残し、また自然に形成された大きな空洞もそのまま活かすなど、木の“記憶”や“個性”を可能な限り引き出すよう工夫が施されています。さらに、半年間という長期の屋外展示を通して、木が割れたり、色が変わったりといった変化の過程そのものを作品の一部として捉え、来場者に自然素材の奥深さや時の流れを体感してもらうことを意図しています。
展示場所は、会場のコネクティングゾーン内にある「ポップアップステージ北 空の広場」で、トルコパビリオンとモナコ館の近くに位置しています。自然と時間を超越するような空間と対話を生み出すこの《WORMHOLE》は、「時空を越えたつながり」をテーマとし、ブラックホールのような概念をアートとして可視化することを目指した作品です。
木と真摯に向き合い続けてきた作家の想いと、300年の時を超えて今なお語りかけてくるミズナラの存在。その両者が融合した《WORMHOLE》は、訪れる人に深い気づきと感動を与えてくれることでしょう。夢洲を訪れた際には、ぜひこの作品の前に立ち、自然と時間、そして人間の創造力が交錯する瞬間を体感してみてください。