「春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬、雪さえて冷しかりけり」道元禅師の本来の面目と題する歌をまであげて、川端康成氏はノーベル文学賞受賞記念にスウェーデンのストックホルムで「美しい日本の私」と題して記念講演をされたのはもう随分と古い話になりました。
随所に日本人が春夏秋冬をどのように愛しつづけてきたかを説いておられました。
外国の家紋は自分の家がいかに侵略的で強かったかを誇示して剣や盾やライオンをあしらった模様を使っているのに反して、日本の家紋は総て植物、昆虫を抽象化したものである。
外国でもこの日本の紋章がうけているのも、美しい日本、自然を愛した日本人の心根がうけているのであろう。戦後の日本の国語教科の中で植物の名称には漢字を使わずに仮名でかくようになっている。
味気ない仮名の木の名前でなく漢字の木の字を覚えてもらいたい。漢字の木からは木の形や木の性格が判るような気がする。
木偏漢字一字で木の名前を表す字を集め始めてもう40年にもなる。
70字くらいからなかなか進まずやっと88字となり100字となった。
昭和59年の正月、当時林野庁の林産課におられた征矢さんから、「建築士と実務」誌にシリーズで何か書いてほしいと御連絡を戴いて、その年の4月から1ヵ月に4字、100字を25ヵ月で完了した。
それぞれの木にまつわる詩歌はいろいろな人に聞いたり、本を見たりで続けてきた。
それに木の樹冠を入れている本が少く、しかも知りたい人が多いので加えた。
このほどこれが合本になって「建築士と実務」誌の100号記念に出るというので、この木の中で私が判っている家紋もつけ加えた。
また同じ木の字でも一般に親しまれて分布の広いものは他に書き方もあるので、これもまとめた。
和歌、俳句、川柳をたしなまれる人はたくさんおられる。木の事を知りたい人も多い。木の事を知りたいと思っておられる方々に少しでも興味を持って戴ければ幸いである。
また、適材適所という言葉があるが、木材ほど適所に使わないとだめなものはない。建築業界の方々に木材のそれぞれの性質を知って貰って適所に使って戴きたい。
何にしても木材業の事は専門家ながら植物では専門家でないので、元大阪府農林技術センター西村直彬所長さんに見直して戴き、さらに書籍では(財)日本住宅・木材技術センター下川英雄理事長ともども序文まて戴き深謝している。
趣味の事が本になってこんなうれしい事はない。少しでも木材普及に役立てば望外の喜びです。