153 |
バラ |
薔薇が暗きを洩れて |
濃やかに斑を流したる大理石の上は、ここかしこに白き薔薇が暗きを洩れて和やわらかき香りを放つ。 |
154 |
バラ |
薔薇の香 |
「贈りまつれる薔薇の香に酔いて」とのみにて男は高き窓より表の方(かた)を見やる。 |
154 |
ヤナギ |
千本の柳 |
館を繞(めぐ)りて緩(ゆる)く逝く江に千本の柳が明かに影をひたして、空に崩るる雲の峰さえ水の底に流れ込む。 |
154 |
木 |
木の間隠れ |
河を隔てて木の間隠れに白くひく筋の、 |
155 |
バラ |
薔薇の香 |
薔薇の香に酔える病を、病と許せるは我ら二人のみ。 |
157 |
バラ |
薔薇咲く日 |
「薔薇咲く日なり。白き薔薇と、赤き薔薇と、黄なる薔薇の間に臥したるは君とわれのみ |
157 |
バラ |
白き薔薇 |
「薔薇咲く日なり。白き薔薇と、赤き薔薇と、黄なる薔薇の間に臥したるは君とわれのみ |
157 |
バラ |
赤き薔薇 |
「薔薇咲く日なり。白き薔薇と、赤き薔薇と、黄なる薔薇の間に臥したるは君とわれのみ |
157 |
バラ |
黄なる薔薇 |
「薔薇咲く日なり。白き薔薇と、赤き薔薇と、黄なる薔薇の間に臥したるは君とわれのみ |
157 |
バラ |
薔薇の花 |
薔薇の花の紅なるが、めらめらと燃え出だして、繋げる蛇を焼かんとす。 |
159 |
ヤナギ |
河のあなたに烟る柳 |
河のあなたに烟(けぶ)る柳の、果ては空とも野とも覚束(おぼつか)なき間より洩れ出づる悲しき調と思えばなるべし。 |
159 |
木の葉 |
木の葉隠れ |
耳側てて木の葉隠れの翼の色を見んと思えば、 |
161 |
フヨウ |
芙蓉に滴たる音 |
曇る鑑の霧を含みて、芙蓉に滴たる音を聴くとき、対(むか)える人の身の上に危うき事あり。 |
162 |
森羅 |
森羅の影 |
瑩朗(えいろう)たる面を過ぐる森羅の影の、 |
162 |
梭 |
梭の音 |
シャロットの女の投ぐる梭(ひ)の音を聴く者は、 |
162 |
梭 |
梭の音 |
蔦鎖(つたとざ)す古き窓より洩るる梭の音の、 |
162 |
梭 |
梭の音のみ |
只この梭の音のみにそそのかされて、幽かにも震うか。 |
163 |
木枯 |
木枯の夜 |
霰(あられ)ふる木枯の夜を織り明せば、荒野の中に白き髯飛ぶリアの面影が出る。 |
163 |
梭 |
梭くぐらせ |
恋の糸と誠の糸を横縦に梭くぐらせば、手を肩に組み合せて天を仰げるマリヤの姿となる |
163 |
梭 |
げたる梭 |
右手(めて)より投げたる梭を左手(ゆんで)に受けて、女はふと鏡の裡(うち)を見る。 |
164 |
ヤナギ |
柳も隠れる |
今まで見えたシャロットの岸に連なる柳も隠れる。 |
164 |
ヤナギ |
柳の中を流る |
柳の中を流るるシャロットの河も消える。 |
164 |
ヤナギ |
河も柳も |
曇は一刷(いっさつ)に晴れて、河も柳も人影も元の如くに見(あら)われる。 |
164 |
梭 |
梭の音 |
梭の音ははたとやんで、女の瞼は黒き睫と共に微かに顫(ふる)えた。 |
164 |
梭 |
梭 |
梭は再び動き出す。 |
165 |
ヤナギ |
遠柳の枝 |
鏡の中なる遠柳の枝が風に靡(なび)いて動く間に |
165 |
ヤナギ |
柳の木立 |
十丁にして尽きた柳の木立を風の如くに駈け抜けたものを見ると、 |
165 |
松が枝 |
松が枝 |
偃蹇(えんけん)として澗底(かんてい)に嘯(うそぶく)松が枝には舞い寄る路のとてもなければ、白き胡蝶は薄き翼を収めて身動きもせぬ。 |
165 |
木 |
朽ちたる木 |
朽ちたる木の野分を受けたる如く、五色の糸と氷を欺く砕片の乱るる中にどうと仆(たお)れる。 |
165 |
木立 |
柳の木立 |
十丁にして尽きた柳の木立を風の如くに駈け抜けたものを見ると、 |
168 |
根 |
根なし |
幹吹く嵐に、根なしかずらと倒れもやせん。 |
168 |
木 |
木に倚る |
木に倚(よ)るは蔦、まつわりて幾世を離れず、 |
169 |
戸帳 |
部屋の戸帳 |
やがてわが部屋の戸帳(とばり)を開きて、エレーンは壁に釣る長き衣を取り出す。 |
169 |
櫓 |
高き櫓を |
廂深き兜の奥より、高き櫓を見上げたるランスロットである。 |
169 |
廂 |
廂深き |
廂深き兜の奥より、高き櫓を見上げたるランスロットである。 |
171 |
杭 |
杭に焼かるる |
ギニヴィアの捕われて杭に焼かるる時 |
172 |
バラ |
白き薔薇 |
頭には白き薔薇を輪に貫ぬきて三輪挿したり。 |
180 |
木枯 |
木枯の如く |
窈然(ようぜん)と遠く鳴る木枯の如く伝わる。 |
183 |
バラ |
白き薔薇 |
山に野に白き薔薇、白き百合を採り尽して舟に投げ入れ給え。 |
183 |
ヤナギ |
柳の裏に |
橋の袂の柳の裏に、人住むとしも見えぬ庵室あるを、試みに敲けば、世を逃れたる隠士の居なり |
187 |
櫂 |
櫂操る |
櫂操るはただ一人、白き髪の白き髯の翁と見ゆ。 |
188 |
ヤナギ |
柳は青い。 |
両岸の柳は青い。 |
188 |
ヤナギ |
左右の柳 |
流を挟む左右の柳は、一本ごとに緑りをこめて濛々と烟る。 |
188 |
木 |
木に彫る |
木に彫る人を鞭って起たたしめたるか、櫂を動かす腕の外には活きたる所なきが如くに見ゆる。 |
188 |
櫂 |
櫂を動かす |
木に彫る人を鞭って起たたしめたるか、櫂を動かす腕の外には活きたる所なきが如くに見ゆる。 |
189 |
櫂 |
櫂の手 |
櫂の手を休めたる老人は唖の如く口を開かぬ。 |