138 |
床柱 |
床柱にもたれたる |
灯に写る床柱にもたれたる直き背の、 |
138 |
椽 |
椽に端居 |
と椽に端居(はしい)して天下晴れて胡坐あぐらかけるが繰り返す。 |
139 |
ヒノキ |
檜に雲を呼んで |
隣へ通う路次(ろじ)を境に植え付けたる四五本の檜に雲を呼んで、今やんだ五月雨(さみだれ)がまたふり出す。 |
139 |
枝 |
枝を卸した |
あの木立は枝を卸した事がないと見える。 |
139 |
床柱 |
床柱 |
と女は眼をあげて床柱の方を見る |
139 |
木立 |
あの木立 |
あの木立は枝を卸した事がないと見える。 |
139 |
椽 |
椽より両足を |
丸顔の人はいつか布団を捨てて椽より両足をぶら下げている。 |
140 |
シタン |
紫檀の柄 |
と男も鵞鳥(がちょう)の翼を畳んで紫檀の柄をつけたる羽団扇で膝のあたりを払う。 |
140 |
ヒノキ |
檜の上枝を掠め |
三人の声が一度に途切れる間をククーと鋭どき鳥が、檜の上枝を掠(かす )めて裏の禅寺の方へ抜ける。 |
140 |
軒端 |
軒端 |
見上げる軒端を斜めに黒い雨が顔にあたる。 |
140 |
床柱 |
床柱に倚りながら |
と再び床柱に倚りながら嬉しそうに云う。 |
140 |
床柱 |
床柱に倚り |
と再び床柱に倚りながら嬉しそうに云う。 |
140 |
上枝 |
檜の上枝を掠め |
三人の声が一度に途切れる間をククーと鋭どき鳥が、檜の上枝を掠(かす )めて裏の禅寺の方へ抜ける。 |
140 |
椽側 |
椽側へ這い |
「あの声がほととぎすか」と羽団扇を棄ててこれも椽側へ這い出す |
141 |
アジザイ |
紫陽花の茂み |
東隣で琴と尺八を合せる音が紫陽花の茂みを洩れて手にとるように聞え出す。 |
141 |
シタン |
紫檀の蓋 |
宣徳(せんとく)の香炉に紫檀の蓋があって、紫檀の蓋の真中には猿を彫んだ青玉のつまみ手がついている |
141 |
シタン |
紫檀の蓋の真中 |
宣徳(せんとく)の香炉に紫檀の蓋があって、紫檀の蓋の真中には猿を彫んだ青玉のつまみ手がついている |
146 |
クズ |
葛の葉 |
はきと分らねど白地に葛の葉を一面に崩して染め抜きたる浴衣の襟をここぞと正せば、 |
146 |
サクラ |
桜の花 |
桜の花を砕いて織り込める頬の色に、春の |
146 |
戸袋 |
戸袋 |
風誘うたびに戸袋をすって椽の上にもはらはらと所択ばず緑りを滴らす。 |
146 |
床柱 |
床柱 |
床柱に懸けたる払子の先には焚き残る香の煙りが染み込んで、 |
146 |
柱 |
柱に靠れる |
「ここにも画が出来る」と柱に靠(よ)れる人が振り向きながら眺める。 |
146 |
椽 |
椽の上に |
風誘うたびに戸袋をすって椽の上にもはらはらと所択ばず緑りを滴らす。 |
148 |
クルミ |
胡桃の裏に |
胡桃の裏に潜んで、われを尽大千世界の王とも思わんとはハムレットの述懐と記憶する。 |
148 |
箸 |
箸でつまめる |
分子は箸でつまめるものですかと。 |
148 |
箸 |
箸の端 |
天下は箸の端(さき)にかかるのみならず、一たび掛け得れば、いつでも胃の中に収まるべきものである。 |