桐の木は燃えるが桐タンスは燃えない
キリは、フジと同じ季節に同じ紫色の花をさかせます。
その材は軽くて白く、暖かさと清潔さを感じさせます。ところで、 琴には清流沿いの砂地で梵鐘の響きを朝夕に聞いて育ったキリ材が もっとも適しており、その音色はすばらしいといわれています。
それではどのような音色か?琴に詳しい知人いわく> 「諸行無常の響きがする」と・・・・。それでは、このキリを燃やすと どうなるんでしょう?木材は加熱されると熱が内部に伝わり、 しだいに温度が上昇し、やがて分解されます。この分解生成物中には 燃えやすいガス成分があって、これが空気(酸素)と混合して着火します。
このような着火の過程は、加熱方法の違いや木材の大きさに関係ありません。
それでは、「燃えやすさ」は何によって決まるかといえば、それは熱伝導性と 分解の速さです。熱を伝えやすい材料は加熱されると内部の温度は速やかに 上昇しますが表面温度は上がらず、分散ガスの着火に必要な高温にいたらない ため火がつきにくくなります。その点、キリの熱伝導性は他の木材より小さい ので、燃えやすくなります。熱分解によって生成されるガス成分ほどの樹脂 でもほぼ同じですが、比重が小さいと熱分解は遅くなります。
しかし、いずれも木材の着火の難易に大きく影響するほどの差はないので、 火がつきやすいかどうかは、熱の伝導性に大きく影響せれることになります。
ということは、キリは燃えやすい木材のグループといえます。
また木材に水分が多い場合は当然ながら着火性はおそくなりますが、 家庭で使用されている家具などの場合は、どの樹種でも水分はほぼ同じで キリが特に水分が多いことはなく、燃えにくい理由にはなりません。
それではなぜ「桐箪笥は火に強い、燃えない」といわれるのでしょうか?
1つには、キリ材の細胞組織は他の樹種と大きく違って柔組織が多い。
また乾燥による収縮・変形が小さいために、燃焼によって割れや隙間が できない。2つには、表面が燃えて炭化層ができることこれが高性能の 断熱材とし働き、熱を内部に伝えにくくする。この2つの理由によって、 火災でタンスの中まで燃え尽きるには時間がかかると推測することができます。
小さいキリ箱を燃やす実験では箱の中の温度が100℃になるまでには 8分ほどかかります。ですから、早く消火を行えばタンスの中の着物は 被害をうけないといえるかもしれません。
しかし、キリ材は燃えても、タンスは燃えない、火災に安全である、> ということの証明はなかなかの難問といえます。