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漢字に見る木の文化
人に貸すと主屋も乗っ取られるおそれのある「軒(のき)」は、偏が示すとおり、元来は牛車の一種である。建築構造としての「のき」が檐である。旁の「詹」には「隙間なくびっしりと詰めてある(もの)」と言う意味がある。雨が漏らないように板を敷き詰めて「のき」を造ることからこの字になったようである。「簷」も同じに扱われ、辞書によってはこのほうが熟語の数が多い。このほかにやも「のき」である。
 家々が建ち並んでいる様を表すときに「櫛比」と言うが、さらに即物的には「連檐」と表現する。檐は常用漢字にはなく、戦後の文字簡素化の際にも胆や担のように「詹」を「旦」と略すこともされなかった。文字のチェックのうるさくない都市計画の論文で「連(←はどの辞書にもない)市街地」と書いてもだれも咎め立てしなかった。そのうちにこれが「担」にすり替わり、三省堂の辞書にまで載るようになってしまった。最近は「連担敷地」となぜそのように使われるか判らない用語まで登場している。折角の木造文化が無視されたようで悲しいばかりか、地上げ屋的発想のレベルの低さが嘆かわしい。
 なお、私の調べた限りでは、檐の訓みに「タン」と言うのはない。殆どが「エン」であり、例外的に「セン」のようだ。
 「のき」と「ひさし」の区別は文学的には不明確である。檐も「ひさし」と読まれ、康煕字典でもその区別は明確でない。「ひさし」は庇が一般的であるが、木偏では梠である。このほか廂も「ひさし」であるが、これは玄関や渡り廊下の屋根が元来である。なお、廂の旁の相の部首は、木ではなく、「目」である。高い木から見渡すような広い目を持ちうる立場を相と言い、大臣の別称にもなっている。
 話は逸れていたが、建築構造上は、棟木を持つ主屋根の一部で外壁よりもはみ出ている部分が「のき」であり、外壁に取り付けた日除け雨除けが 「ひさし」である。
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