はじめに
国際会議では、コーヒーブレイクの間にそれまでの会議録を整理して渡してくれることがあるが、このようなことは、日本の会議ではまずない。原則として表音文字のキーを叩くだけの欧文タイプライターに対して、邦文ワープロは、表意文字である漢字の使い方を考えながら打つので、コンピューター仕掛けであっても入力の速さにおいて敵わないのである。しかし、漢字のほうが情報伝達力は優れており、A4版一枚に詰め込める情報量も読みとり速度も邦文のほうが大きい。古くから漢字を使っていた中国で製紙、印刷といった情報伝達上の重要なツールが最初に発明されたのも頷けるところである。 漢字は、康煕字典で体系化された部首によって分類されている。文化大革命で生まれた略字、日本独自の国字や略字も含めると、約二万の漢字がある。新しい字の中には、部首が曖昧なものもあるが、部首別の字数では「木」「水」「艸」が三大部首である。漢字の母国である中国は、現在では森林比率の低い国であるので、部首「木」が多いことには意外の感がある。
しかし、実は漢字が生まれた頃の中国が豊かな森林に囲まれていて、人々の日常には木の文化が深く根ざしていたことを証明している。 部首「木」の漢字は、樹木の種類、姿、部分を表しているいわば「木を表す字・川上の字」のほか、資材として利活用する過程で用いられてきた「木が造った字・川下の字」がある。前者については、樹種毎の解説をした随筆が書かれたり、数十の樹種名漢字をレイアウトした森林組合の記念品が作られたりしている。これに対して後者は、使われ方が変遷してなぜ木偏であるのかまで曖昧な字も多く、川下を業務領域とする当財団でもなにげなく使ってしまっている。しかし、川下の字こそが木の文化を担ってきたのであり、当財団の母胎とさえ言える。これらの字を解説しつつ、当財団業務を説明したいと考えてこの駄文を弄するものである。