木になるナス
8月末にインドネシアにおいて「熱帯森林資源の持続的な生産と利用」をテーマとした国際シンポジウムを東南アジアとわが国の研究者を交えて開催した。これは日本学術振興会の主宰する拠点校方式学術交流事業によるものであるが、熱帯産木材に関して多面的な研究成果が発表された中で、造林樹種の生産と利用に関する取り組みが注目をひいた。もちろん、インドネシアをはじめ熱帯地方における植林事業はすでに数多くの取り組みが行われ、すでに産業造林として展開されている事例も多いが、最近は地球温暖化防止に関連して自国外で温室効果ガスの排出削減のプロジェクトを実施して、クレジットを発行するクリーン開発メカニズム(CDM)に関連して注目度があがっている。また、パルプ原木としての資源利用だけでなく、建築の構造的用途の用材生産をにらんだ植林事業も行われるようになってきた。そのため早い生長とすぐれた材質をもつクローンの選抜育種も積極的に行われきているが、熱帯産樹木の材質形成というような基本的なところではまだまだ未知のことが多いのではなかろうか。
熱帯産針葉樹のアガチス
(バリ島のエカカルヤ植物園)
水平方向に伸びた枝が特徴的であるが、
そのことが原因か、木口断面には
新月状のアテ材が不規則に分布している。
熱帯の樹木には年輪がみられないというのが通例である。確かにラワンなどの木口面をみても、道管が一様にならんでいるのが観察されるだけである。年輪らしいものがみられるのは、ナンヨウスギとかメルクシマツという熱帯産の針葉樹の場合や、乾季と雨季をはじめ、結実や落葉などによって生長速度に違いが生じた場合などに限られるようだ。したがって、南洋材では幹の断面から年輪を数えて樹齢を判読するのははなはだ困難といわざるを得ない。
同僚の伊東隆夫教授がインドネシアで生育したアカシアマンギウムやインドネシアマホガニーについて円盤解析を行ったところ興味ある事実を明らかにしている。これらの樹種では年輪構造らしい生長輪は観察されるが、その数は実際の樹齢よりもかなり少なく、とくに樹心近くには明瞭な生長輪は認められなかった。また、繊維の長さから材の成熟度を評価すると、未成熟と成熟の境界はきわめて樹心近くに限定され、しかも肥大生長の良否、すなわち生長のスピードは成熟時期の早い遅いには関与しなかった、等々である。後で述べる未成熟材から成熟材への変化は、一般的に広葉樹が針葉樹より不明瞭であり、またその時期は広葉樹の方が早いといわれているものの、熱帯材の成熟度が早い可能性を示したもので注目される事実である。
熱帯地方では草も木になる場合がある。温帯地方では過酷な季節は地上部分を枯死させて種子や根茎で耐えるが熱帯地方ではその必要はなく、幹を大きく伸ばすものがあり、ナス科にもそういったものがみられる。木になるナスである。気候要因が植物の生長や形態形成に大きな影響を及ぼしていることを示す例であろう。
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