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今村祐嗣のコラム

熱帯材の年輪

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スギの太りとシワ

筆者が奈良県で20年生ほどのスギを対象に幹の太りの経過を測定したところでは、4月に入ると太り始め、5~6月頃にかけて急激に生長のスピードを増し、その後ゆっくりと10月頃まで続くというのがその結果であった。年輪の幅でみると、5月末頃までにその年の幹の太りのほぼ半分がつくられていた。では、晩材(冬目)はいつ頃から形成されるのか。定期的に幹から小片を切り出して調べてみると、6月の下旬から7月にかけて始まるという観察結果が得られた。幹の生長をコントロールしているホルモンは樹木の先端でつくられ下に伝わるため、伸びがゆっくりとなってホルモンの生産が衰えると、幹の下の方から影響が出始めて晩材が形成されるようになる。もちろん、こういった幹の太りのようすや晩材形成の時期は、生育場所はもちろん、立地条件、樹齢、あるいはその年の気候によっても支配されるのはいうまでもない。沖縄のリュウキュウマツでは3月頃に始まった肥大は秋になっても衰えず、翌年の1月頃にやっと生長を休止するのはその例であろう。リュウキュウマツでは晩材形成の時期が長期間に及ぶためか、その幅が広く重厚な感じを与えてくれる。
 樹木は年齢によってその材質を変化させることはよく知られている。いわゆる樹心から15年輪程度までは未成熟材として、それより外側に形成される材質の安定した成熟材と区分される。未成熟材は密度や強度的性質は低く、また寸法変化も大きい。未成熟材では細胞の長さも標準長に達しておらず、材の強さに影響する細胞壁のセルロース・ミクロフィブリルの傾きも緩やかである。
木口切片の軟X線写真
スギの成熟材(左)と過熟材(右)の
木口切片の軟X線写真
ところで、老齢化した樹木の材部はどういう性質を備えているのだろうか。一番の特徴は年輪幅がきわめて狭くなることである。大体250年以上になると年輪幅が0.5ミリ前後の超過密の年輪を構成するようになる。これぐらいの年輪になると木口面で数えると1年輪に10細胞くらいしか並んでいない。ちなみにスギに成熟した材の平均年輪幅は3~4ミリ前後が多いが、この場合は100細胞以上を数えることができる。すなわち、細胞の数では成熟材の10分の1くらいしか1年に生長していないことになる。
さて、顕微鏡で細胞の形をみてみると、早材の細胞は直径が大きくかつ細胞の壁がきわめて薄いが、一方で晩材では径が小さく細胞壁は極端に厚い。すなわち、早材と晩材のコントラストが著しい。老齢化した、いわゆる過熟材の早材部分は強度も密度も低いが、この理由は先ほどの未成熟材と同様に木材を構成している細胞壁のフィブリル傾角が緩やかになっていることと、成分的にセルロース量が少なくてリグニンが多いことに起因している。 このスギの老齢化した部分では、それまで真円状に生長してきた年輪が波打つようになってくる。すなわち年輪がしゅう曲する。老齢化して年輪が波打つ現象はレッドウッドやベイスギなどにもみられるが、スギの場合がとくに顕著であり、板目面には笹杢など美しい木目をつくり出す。国産材とくにスギの利用開発が重要なことはいうまでもないが、難しい、困ったとシワを寄せさせてはならない。

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