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今村祐嗣のコラム

際の科学

先日、屋久島を訪れた。有名な屋久杉を見るのが旅の目的ではなかったが、短時間で魅力的な屋久島に触れることができる屋久杉ランドを歩いてきた。森閑とした山の雰囲気に接したのはもちろんであるが、改めて樹齢千年を超えるスギの大木に圧倒された。よく見ると、この屋久杉の幹にはたくさんの種類の植物がからみ合っている。特にヤマグルマの木がスギの大樹に寄り添っている姿がしばしば見られる。
 屋久杉はなぜこのように長生きであるのか。ある説を聞いたことがある。もともとスギは寿命の長い樹種であるが、屋久杉だけが数千年以上の長寿を誇っている秘訣は、台風と共生しているヤマグルマにあるという意見だ(石崎厚美、林業技術、No.418、1977)。すなわち、屋久島に襲来する台風の数は多く、そのたびに幹や枝の折損を生じ、その結果不定枝の発生を促して上長成長を再び活性化するというものである。また屋久杉にはヤマグルマという広葉樹がまつわりついていることが多く、癒着して活性成分をスギの木に供給して生命維持に関与しているのではないかという考え方である。
屋久杉と
異形の様相をみせる屋久杉と
それにからみ合っているヤマグルマ

ところで、ヤマグルマは樹木の分類や木材組織の点からは奇妙な木とされている。いわゆる「無道管広葉樹」なのである。広葉樹であるにもかかわらず、本来広葉樹には存在するはずの道管をもたず、針葉樹の特徴とされる仮道管だけで構成されている。広葉樹に特有の道管は水分の通導だけのはたらきをしているが、仮道管の方は水の移動だけでなく、樹体の維持という力学的な役割をも兼ねていて、どちらかというと進化的には古い樹木に特徴的と考えられている。広葉樹の属する被子植物は、その化石が中生代のジュラ紀から白亜紀の中ごろの地層から発見されることから、1~1.5億年前に出現したと推定されている。一方、針葉樹が地球上に現れるのは年代をさらに遡った2億年前のあたりと予測されている。とすれば、ヤマグルマは、見かけは新しいタイプの樹木であるが、内部は古い体質を保持している変わった樹木ということになる。
樹木の進化という点では、イチョウも不思議な木である。便宜的には針葉樹の仲間に入れられているようだが、葉の形をみるとどう考えても針葉樹ではない。材が軽軟であることや組織が針葉樹的な仮道管で構成されていることからの分類であろう。イチョウが地球上に発生したのは現生の樹木の仲間ではきわめて古く、その起源は石炭紀の後半から二畳紀、中生代の三畳紀あたりに栄えたコルダイテスと称される化石植物にさかのぼるといわれている。かっては同じ仲間が地球上で繁茂していたらしいが、現在まで生き延びたのは1属1種のイチョウだけである。 このイチョウは雌雄別株であり、いわゆる銀杏の実が採れるのは雌株の方であることは良く知られているが、もっとも興味をひくのは受粉に際して花粉が胚珠に入り数ヶ月成長すると、花粉管の中に鞭毛をもった精子が生じ、泳いで卵細胞を結びつくことだ。

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