木材を3000℃まで焼成加熱しても、基本的な細胞形状や配列様式はほとんど変わらない。しかし、木炭の構造の特徴は細胞壁にあり、諸機能の発現もそれと密接に関連している。焼成に伴い、木材の強度を受け持っていたセルロース・ミクロフィブリルの結晶構造は崩壊し、木炭の破断面はきわめて平滑なガラス状の様相を示してくる。X線回析のチャートをみると、300℃付近でセルロース結晶によるピークが消失し、1400℃まででは明瞭なピークを確認することはできない。しかしながら、徐々に新たなピークが形成されていくようなスペクトルを示し、炭化温度1800℃では黒鉛の結晶構造によると考えられる鋭いピークが認められる。セルロースやリグニンの分解と並行して、熱力学的に安定な方向に炭素原子の再配列が生じ、黒鉛状の結晶構造に変化していく過程が推察される。
炭素材料は、ベンゼン環が縮合したシート状構造である炭素六角網面(以下、網面)を最小構成ユニットとする構造体である。炭素化・黒鉛化が進行して、網面が三次元規則構造を形成した炭素材料が黒鉛である。その一方で、網面が不規則に配向した結果、網面間に無数の細孔をもつ多孔質な炭素材料が活性炭や木炭である。木炭のように網面が未発達で、なおかつそれらがランダムに配向した微細構造は、いたるところで網面のエッジ部が露出しており、多くの含酸素官能基が存在する。一方、炭素化が進行するにつれて、含酸素官能基などの化合物が遊離して炭素六角網面は非常にリジッドな架橋構造で結合されるようになる。木炭の網面の大きさや積層枚数、および付随する含酸素官能基の状態や量は炭化温度によって異なることが考えられる。
そこで、700℃・1時間で熱分解を行ったスギ木炭を電子顕微鏡によって直接観察したところ、様々な形状のナノカーボン構造が観察された。その一つは、木炭の微粉末試料中に観察された、オニオン状炭素粒体である。さらに、高分解能透過電子顕微鏡によって木炭中にダイヤモンド構造が見いだされ、その電子回折パターンから[110]におけるダイヤモンド構造であることが確認されている。また、木炭中に黒点のように見えるものが観察され、平均径が約10nmであることから試料表面に存在する微細空隙メソ孔に相当すると考察されている。
炭化したスギ。木炭の機能は細胞壁のナノ構造と関連