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かや葺き屋根はなぜ漏らぬ
物理の散歩道という本をご存知だろうか。筆者がまだ高校生の時代(今からほぼ40年前)に興味をもって読んだ本で、暮らしの周りの身近な現象をロゲルギストと称する物理学者のグループが解き明かし、当時刊行されていた雑誌”自然“に連載したものを再録した好著(岩波書店)であった。この中には丸ビル大の豆腐はできるか(自重のことを考慮すると、おのずから高さはきまってくる)とか、ビンの中に入れたハエが底に止まっているときと、飛んでいるときでは全体の目方は変わるか(密閉状態では、飛ぶときの気圧上昇で重さは変わらないはず)などクイズ番組に登場しそうな話もあり、頭をリフレッシュするには最適のテーマが満載されている。
印象深い話を紹介してみたい。それは満員電車にホームから詰め込まれた時に力がどうかかかるか、というもので、入り口から対面に向かってはギューギュー詰めになるが、戸口と戸口の中間部と入り口の真横には圧力は及ばず、ラクラクとしていられる、となる現象を電車に見立てた箱と人を想定した豆を使って実験して検証している。さらにこの現象を「一様充填」の課題に敷延し、円筒に砂を一様に充填する難しさを述べている。なお、この解は円筒の中に詰める砂を入れた別の管を用意して、内側の管を徐々につり上げながら底に開けた小さな穴から外側の管に砂を満たしていくというもので、大切なポイントは落とした砂の上面と中の管の距離を一定に保つところにあった。
フランスのブルターニュ地方で見かけた
かや葺き屋根の建物で、100年以上も前の
ものを修復しホテルとして利用している。
かや葺き屋根はなぜ漏らぬという一節がある。これは、細いカヤの茎を並べただけで、どうして水が漏らないだろうかという問題に挑戦したものである。カヤを並べただけでは水がしみこめる余地はいくらでもありそうなのに、大雨が降っても平気だというのはいったいどうしてだろう?カヤの場合は、断面が円形をしているため、水は遠慮なく継ぎ目の隙間に流れ込むはずで、この点が曲面の低いところを水が流れていく瓦屋根とは異なっている。この本の著者が実験したところ、表面に並んでいるカヤとカヤの茎の間に「またがり流れ」というものができて、下のカヤの上面は濡れるものの下面へは廻らない。ちょうどの手の指を並べて上から水を流し、それを傾けた状況を想定してもらえれば良いだろうか。もちろんカヤが真っ直ぐに下方向に並んでいる必要はなく、傾いていても流れの様子は一緒である。雨が多いと下の2層、3層のカヤにもまたがり流れができるが、せいぜい表面から4~5層のところにしか雫が落ちてこないという。
昔は新聞社や出版社から子供や青少年あるいは一般向けの啓蒙的な雑誌が数多く出版されていたが、いつしかそれらは姿を消してしまった。もちろん「。。。サイエンス」や「。。。アーキテクチュア」という雑誌が最近良く読まれているが、新技術や未来志向型のテクノロジーの紹介ということで好まれるのであろう。しかし、もっと日常的な基礎的現象を分かりやすく啓発してくれるものも必要ではないかと感じている。身近なところの現象に興味をもって目を向け、その物理や化学、生物を科学の目で考えることが大切ではないかと思う。
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