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今村祐嗣のコラム

ケミカル・モディフィケーション

ケミカル・モディフィケーションは木材の技術用語としては化学修飾と対応させている。修飾という言葉のとおりに、つくろい、かざるという意味であるが、モディフィケーションという訳から受ける印象では変化を加えるというニュアンスが適切であろう。化学修飾の中身は、木材を構成する成分を化学的に改質して、膨張や収縮を抑制したり、腐朽に対する抵抗性を向上させたりする技術を総称している。
 デッキ材料として木材にフェノール樹脂処理したものが市場に出ているが、広義の化学修飾木材の一つである。木材に分子量の低いフェノール樹脂を注入し、熱をかけて硬化させると、狂わない、腐らない、シロアリも食害しない木材に変化する。この処理のポイントは分子量の小さい樹脂を使用することで、樹脂は木材細胞の壁の中の微小な空隙に侵入して固まる。もし接着剤に使用するような分子量の大きい樹脂を注入した場合は、それらは細胞の壁の中に入ることができず、いくら多く注入しても寸法安定性の向上や腐朽の抑制には寄与することができない。
 ところで、化学修飾の代表的なものにアセチル化処理がある。高温下で木材を無水酢酸と反応させると、木材成分に酢酸のアセチル基が結合し、寸法安定性が向上した防腐木材が誕生する。木材が吸湿して膨張するのは木材成分中の活性な水酸基という、いわば開いた手に水分子がくっつくと考えると、この開いた手にアセチル基という安定なものを前もって握らせておくと、水分が結合する余地がなくなると考えれば良いかもしれない。同様に腐朽菌の分泌する酵素も、分解のとっかかりとなる木材成分の活性領域を見出せなくなると思うと分かりやすい。
 防腐剤を使わなくても腐らず、寸法安定性が向上したアセチル化木材は利用する上で都合が良いように思われるが、難点は処理コストがかさむことで、かってある国内企業も試みたが限定されて生産に留まった経緯がある。最近、ヨーロッパで実用的な製造が行なわれるようになり、わが国においても再び話題に上がりつつある。コストはいくぶん改善されてきたように伺っているが、それ以上に環境とのかかわりで、化学修飾した木材への関心が盛り上がっていると考えるべきなのかもしれない。 以前このキーワードで紹介した熱処理木材も、200℃以上の加熱操作によって狂いや腐れが抑えられていて、化学修飾の機構に基づいて性能が向上したと考えられる。熱によって木材成分の開いた手同士ががっちり握手した構造、あるいは活性部分が除去された木材、と思えば良いであろう。しかし、樹脂処理を除いて、化学修飾木材はシロアリ、特に攻撃力の激しいイエシロアリの食害を抑制することは一般的に困難である。ただ、処理木材だけを与えていると、だんだんやせ衰えてついには餓死してしまう。シロアリは齧ってみるけれど、お腹の中で分解して栄養にできないということであろうか。

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