今村祐嗣のコラム
カビ、黴、かび
この季節、食べ物やお風呂に『カビ』が生えて嫌われる。お風呂の場合、カビは主として壁や天井あるいは石鹸入れなどの浴室用具表面に繁殖する。水道の蛇口の金属部分あるいは排水管周辺にもよく赤色~ピンク色のスライム状のものが発生するが、これはカビではなく細菌や酵母の仲間である。プラスチックのような吸水しない材料であっても表面に付着する水分でこういった微生物が繁殖する。ところで、カビは浴室の壁や目地の部分に食い込むように繁殖するため、汚染を完全に除去することは困難であるが、一体このカビの生態はどうなのであろうか。
カビという呼称は包括的な呼び名で、微生物の真菌類のうち栄養繁殖の期間中に糸状を呈する接合菌類、子嚢菌類、不完全菌類に属する菌類を指している。木材に繁殖する微生物で、表面にのみ付着して汚染を起こすものを表面汚染菌、未乾燥の製材品に侵入し辺材部などに変色を引き起こすものを変色菌として区別することもあるが、両者ともカビ汚染とされることが多い。
カビに汚染されると褐色や黒、黄色や赤などの独特の色が付着するが、これらはそれぞれの菌の種類によって特異的であり、胞子のもつ特徴的な色によって、また、菌糸自身の色や菌糸の分泌する色素によって生じるが、菌糸から出る酵素と木材成分が反応して着色する場合もある。辺材変色として代表的な青変は多量に存在する菌糸の色が原因である。カビはデンプンや糖類の存在する辺材の放射組織に蔓延することが多く、木材の主要構成要素であるセルロースやリグニンをほとんど分解できないため、いわゆる『腐朽菌』と異なり強度低下を引き起こすことはほとんどない。
最近の木質系住宅建材では、室内空間の環境問題からホルムアルデヒドの放散量の少ない接着剤が使用されるようになってきたが、それに伴いカビがよく発生するのではないかという懸念がもたれている。確かにホルマリンは殺菌剤として使用されたこともあり、微生物の繁殖を抑制する効果をもつ。われわれの実験によると、建材の接着剤から出るホルムアルデヒドの影響は、放散量が極端に多い場合はカビの生長が確かに抑えられるが、一定の範囲ではその影響は不明確であった。また、カビの種類によって、ホルムアルデヒドに対する感受性に差異が認められた。
このように嫌われるカビではあるが、逆にうまく利用して腐朽菌の生育やシロアリの活動を抑えるバイオロジカルコントロールの対象としての研究もなされている。