今村祐嗣のコラム
バイオレメディエーション
筆者の所属する京都大学生存圏研究所は、昨年の4 月に旧木質科学研究所と同じ京都大学の研究機関であった旧宙空電波科学研究センターが、大学の法人化と時期をあわせて統合・改組した新しい研究所で、人類を取り巻く環境を人間生活圏、森林圏、大気圏、宇宙圏としてとらえ、それぞれが抱える課題を解決し将来の展望を切り開くことをミッションとしている。この研究ミッションの一つに地球の環境修復というのを掲げているが、これに対処するのに特に生物の力を借りて修復しようというのがバイオレメディエーションである。あえて日本語に訳すると「生物による環境修復」ということになる。
こういうといかにも流行の言葉のようであるが、この地球上ではもともと生物相互が共存して暮らしてきたもので、ある特定の生物だけが他人の汚したものをきれいに戻してくれるという奉仕作業を行っているものではない。しかし、あまりにも地球上の環境汚染が進んでいるために、クリーナーの役目をする働き者に注目してみようということであろう。バクテリアなどの微生物を利用して汚染物質を分解・無害化する環境修復の試みがまず行われたことから、バイオレメディエーションというとバクテリアを利用する方法が一般的であったが、今では色々の生物の力を借りで環境修復に挑戦しているというのが実状である。
キノコをつかって分解の難しい化合物を分解する研究に取り組んでいる九州大学の近藤隆一郎先生によると、ダイオキシンやPCB、DDT などの残留性有機汚染物質がキノコパワーで分解できるということで、これはキノコが木材成分のうちでも分解が難しいリグニンを分解できる能力をもっていることによるとされている。というのは、リグニンは地球上でももっとも難分解性の天然高分子だといわれていて、それを単独で分解できるのはキノコだけというわけである。キノコの利用には多くのエネルギーの投入を必要とせず、二次汚染の心配もないという長所をもっている。
わたしの専門とする木材保存の分野においても、かって全世界で大量に製造されたCCA処理木材の安全廃棄に、この生物の力を利用する試みが行われている。CCA は銅、クロム、ヒ素という金属が木材成分と結合しているため焼却処理や分解操作が容易ではないが、ある種の微生物はこれらの金属を木材成分から分離する能力をもっていて、酸抽出との併用で効率性も向上した。木材を劣化させる微生物の活動を抑制するために使用された防腐薬剤が、廃棄に際してはそれら微生物の能力に依存するとは皮肉なものである。
われわれの研究所仲間も、土壌や水中のカドミウムなどの有害金属を凝集させる能力の高い植物を利用する方法など、植物の生理や遺伝子のはたらきとからんで多くのチャレンジを行っているが、植物を使ったものは特にファイト( 植物) レメディエーションと分けて使われることが多い。