今村祐嗣のコラム
メンテナンス
日本の住宅の耐用年数が欧米諸国のそれに比べて大変短いことはよく指摘されることである。土地に対する考え方や中古住宅の市場性など歴史的、社会的要因が大きく影響していると考えられるが、一方でわが国とヨーロッパなどの地域との気候因子の違いもその一因であろう。日本は年平均気温や年間降水量とも高いが、特に夏場の雨量が多いのが特徴である。腐れや虫害の発生は、気温と水分によって影響されるところが大きく、この両者が同時に高くなるわが国は劣化環境としてはきわめて危険な地域にはいる。
木材は本来耐久性のある材料である。これは、世界最古の木造建築物である法隆寺を1400 年以上にわたって支えてきた木材の驚異的な性能を引き合いにだすまでもない。しかし、木材の場合、腐れやシロアリの被害は年数がかなりたっても全く発生せず耐久性が維持される反面、わずか数年で被害が進行する場合もある。建立から永い歴史をもっている日本の寺社建築では、耐朽・耐虫性のある樹種の使用とともに、水への配慮をした構法と十分な保守管理によって耐久性が確保されてきた。特に保守や維持管理という“メンテナンス”の重要性が指摘されている。
しかし、最近の住宅では、生活機能をより重視することから、水廻り箇所の分散化や高気密性によって耐久性が二次的に位置付けられ、また、大壁工法の増加によって劣化の早期発見も困難になっている。また、使用される樹種の多様化や各種の木質材料の出現、釘や金物接合の多用、アメニティ感覚の重視による木材の屋外分野への使用拡大など、むしろ劣化を促進する要因が増加している。
このため従来から多様な耐久性向上戦略がとられてきた。かっては毒性の高い薬剤処理がもちいられてきたが、最近ではまず人畜に対する影響が少なく環境負荷の低い低毒性薬剤が開発目標とされている。シロアリに対する防除方法も、薬剤の使用量を減らすレスケミカルの方向にあり、さらに物理的方法などノンケミカルな工法も試みられている。
しかし、腐朽菌やシロアリと共生して耐久性を維持するというのはそう簡単ではない。そこで、劣化の早期発見や維持管理ということがますます必要となってきている。いわば、“気づかいで”劣化を診断し、“思いやり”で維持して長持ちさせようということである。腐朽菌やシロアリの生理・生態をよく理解した上で、住まいのどこが劣化しやすいかを考えて早期にそれを見つけだし、補修や保守につとめることが大切である。
住宅の耐用年数の延伸や価値の向上には、劣化を診断することとメンテナンスが不可欠となっている。気づかいと思いやりは木材の炭素固定期間を延ばし、地球の温暖化防止にも一役買うといえる。