75 |
フジ |
藤下 |
頭上の紫藤(しとう)は春日の光りを揺りて垂れ、藤下の明子は凝然(ぎようぜん)として彫塑(てうそ)の如く佇めり。 |
75 |
紫藤 |
紫藤 |
頭上の紫藤(しとう)は春日の光りを揺りて垂れ、藤下の明子は凝然(ぎようぜん)として彫塑(てうそ)の如く佇めり。 |
75 |
藤棚 |
藤棚 |
五月某日予等は明子が家の芝生なる藤棚の下に嬉戯(きぎ)せしが、明子は予に対して、 |
75 |
藤棚 |
藤棚 |
予が心既に深く彼女を愛せるに驚きしも、実にその藤棚の下に於て然りしなり。 |
76 |
紫藤 |
紫藤 |
如何に故園こゑんの紫藤花下(しとうくわか)なる明子を懐おもひしか、 |
76 |
薔薇色 |
薔薇色 |
予が所謂薔薇色の未来の中に、来る可き予等の結婚生活を夢想し、 |
79 |
涼棚 |
涼棚 |
傲然(がうぜん)として涼棚(りやうはう)の上に酣酔かんすゐしたる、 |
80 |
簾裡 |
簾裡 |
かの酒燈一穂(しゆとういつすい)、画楼簾裡(ぐわろうれんり)に黯淡(あんたん)たるの処、 |
81 |
木戸 |
木戸口 |
新富座の木戸口に佇みつつ、霖雨の中に奔馳し去る満村の馬車を目送するや、 |
82 |
バラ |
薔薇の花 |
薔薇の花あり。而して又かの丸薬の箱あり。 |
83 |
紫藤 |
紫藤 |
紫藤花下しとうくわかに立ちし当年の少女を髣髴するは、 |
87 |
黄梅雨 |
黄梅雨の天 |
紛々たる細雨は、予をして幸に黄梅雨の天を彷彿せしむ。 |