細胞が伸長生長していく過程でつくられる一次壁の形成が終わると、細胞の形は定まり続いて二次壁の堆積が始まる。一次壁の形成が終了した段階で将来ピットになる領域はすでに円形に仕切られており、しかも中央のトールスと周辺のマルゴの区分ができている。さらにマルゴには放射状に配列したミクロフィブリルの存在さえうかがうことができる。マルゴの部分は非セルロース様物質で密に充填されているが、これを化学的に除去してみると、完成されたメンブレンとまったく同等の仕組みをすでに認めることができる。
マルゴにおけるミクロフィブリル束の放射状配列については、本来網目状配列として形成されたものがトールスの移動によって引っ張られ、二次的に再配列したものではないかという考え方もあった。しかし、すでに分化段階で形態形成がなされていることが明らかになったことで、これは細胞の壁形成機能によってもたらされたものであることは明らかである。このことは、仮道管と放射組織とが交差する分野領域においても、仮道管側に放射状に伸びるミクロフィブリルが観察されることからも示されている。
水分移動の制御に機能的なトールスとマルゴの形が、細胞壁の形成段階のきわめて初期につくられているのは、樹木の細胞壁形成の不思議な一項であろう。
分化段階の間を通して非晶物質で充填されていたマルゴは、二次壁の最内層の形成が終了すると分解され、メンブレン構造ができあがる。この現象は、広葉樹の道管で分化期間中は充填されていた穿孔板が開孔するのと同様なオートリシスの一つと考えられる。
充填されたピットメンブレン
開孔途上のピットメンブレン