マイクロ波の利用というと、すぐ思い出すのは電子レンジで、この場合は中にいれた物が周囲から発信された電波を吸収して振動し、その時の摩擦で電波のエネルギーが熱に変換される仕組みになっている。特に誘電率の高い水(一般の物質の中でも誘電率が高いとされる陶磁器に比べても約10倍)は、電波を吸収して温度が上がりやすい傾向をもっている。
かなり昔のことになるが、当時同じ研究仲間であった則元 京京大名誉教授(現、同志社大学教授)らとマイクロ波加熱を利用した曲げ木を研究したことがある。水を含んだ木材を電子レンジの中で加熱して乾燥と同時に曲げ加工するもので、従来の方法に比べてより大きな変形が可能になった。写真はスギ材を加熱して型に沿ってかなり小さな曲率にまで曲げ加工し、乾燥固定後に湾曲内側の圧縮部分を観察したものである。木材の細胞壁自体が折れ曲がるように波状にしゅう曲し、しかも変形は圧縮破壊と異なり細胞壁に均等に分散していた。このしゅう曲が圧縮破壊と異なるのは、再度水分を吸収させると曲げ加工した材は直材に戻り、細胞壁の"しわ"もほとんど消失したことで証明されている。すなわち、マイクロ波加熱によって木材細胞壁のマトリックス成分が軟化し、変形が容易に生じたものと解釈された。擬音語表現の得意な則元教授が、"木がぐにゃぐにゃになった"と当時表現されていたことを憶えている。
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曲げ木 |
圧縮部におけるスギ細胞壁のしゅう曲 |