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「共生」と「共創」を適切に使い分ける

智頭の山人塾2025 森林と樹木のサイエンスシリーズ第4回 2025年11月20日 「共生」と「共創」を適切に使い分ける 田中和博 (京都府立大学名誉教授) 地球温暖化による環境への影響が顕在化したことにより、文明のあり方が改めて問われて います。天然林施業が自然との「共生」であるとすれば、人工林施業は自然との「共創」で あると言えます。文明の成果を自然界に持ち込み、有効に持続的に活用していくためには、 「共生」と「共創」を適切に使い分ける必要があります。

1.はじめに

2025年も残るところあと1ヶ月余りとなりました。21世紀も4分の1が過ぎましたが、地球温暖化問題を始めとして、人類を取り巻く多くの課題が殆ど改善されないまま過ぎてきており、このままでは人類は本当に窮地に陥るのではないかと心配しております。これが「人新世」の実態なのかと思ってしまいます。 こうした状況の中、改めて「文明」とは何だったのか、私自身、問い直し続けています。
「文明」そのものを否定しているのではありません。「文明」がもたらしてくれた便利で快適な生活環境には、とても感謝しています。
しかし、その恩恵に甘んじて、さらなる欲求を追い求めても良いのか気になっております。 「足を知る」という言葉がありますが、利用可能な資源は有限であり、この地球上にはもはや新天地は無いということを自覚すべきです。したがって、持続可能な社会を構築して、次世代に引き継いで行く必要があります。
そうした時代背景の中で、最近気が付いたことがあります。それは、自然に接したり、生物資源を活用したりする場合は、「共生」と「共創」を適切に使い分ける必要があるということです。そうした視点で森林管理問題を捉えると、「人工林」、とくに「同齢単純林」をどの様に取り扱って対応していくのかが、喫緊の課題であると思います。
本日は、前半では、「文明」がもたらしてくれた功罪について整理するとともに、「理系」と「文系」の違いを明確にし、文理融合の必要性について述べたいと思います。こうした問題を考えるうえで重要なことは、「動物」と「人間」の違いを理解して、「文明」の本質を知ることです。
本日の後半では、人工林問題、地球温暖化と気候変動の問題、生物多様性の保全などを考慮に入れて、森林をどの様にゾーニングして、どの様に持続的に管理していくべきなのか、「林業」ではなく「森業」という視点から捉えてみたいと思います。

2.人類を取り巻く喫緊の課題

喫緊の課題の筆頭に掲げるのは、なんと言っても、地球の温暖化とそれによって引き起こされ始めた気候変動です。ハワイ島マウナロア観測所では1958年から現在まで大気中の二酸化炭素濃度が観測されており、そのデータの推移をグラフ化したものはキーリング曲線と呼ばれていますが、キーリング曲線は毎年増加傾向にあり、減少傾向どころか、頭打ちになる傾向すらありません。人類は、1992年の地球サミットで気候変動枠組条約を採択し、その後、京都議定書、パリ協定と温暖化対策や脱炭素化の取り組みを進めてきましたが、2023年には国連のグテーレス事務総長が地球沸騰化と表現する事態に至っています。
現代文明が内包している問題点として、森林技術誌1000号では下記の4つを取り上げま した(田中,2025)。
①エネルギーや原料の化石資源への依存
②難分解性の強固な物質の製造と使用
③人工物を維持・管理する責任の放棄
④土地の制約からの逃避
①の過ちの影響は地球温暖化となって現れていますので、再生可能資源への転換が必要です。②はマイクロプラスチックによる環境汚染等です。分解し易い物質にして、循環させることが必要です。③については、老朽化した社会インフラの更新が問題になっています。そして④は資本がより有利な条件を求めて移動していくことによる弊害です。その土地や地域を改善していこうというバイオリージョンの考え方が必要になります。

3.産業革命以降の「文明」とは

こうした状況の中、改めて「文明」とは何だったのか、とくに、産業革命以降の「文明」とは何だったのかと、私自身、問い直し続けています。

3.1 薪炭から化石燃料へ

産業革命以前の世界では、エネルギーは主に薪炭に依存していました。それゆえ産業革命以前の世界では、燃材を持続的に供給する体制の確立は必須条件であり、社会的な使命でもありました。世界の多くの国や地域で採用されてきた管理手法は「区画輪伐法」でした。その方法は、薪炭を供給する森林の合計面積を伐採後に森林が再生するまでの年数で割り、その値を毎年の伐採面積の基準にするという方法でした。
区画輪伐法
薪炭林は主に広葉樹林であり、伐採しても萌芽により速やかに更新していきますので、持続可能性という点では確実な方法でした。
しかし、やがて地域が豊かになり人口が増えてくると、「区画輪伐法」による供給体制では人口増加に基づく需要増に対応できなくなったため、人類は化石燃料に依存するようになっていきました。皮肉なことに、石炭や石油は、46億年の地球の歴史において、大昔の大気中の二酸化炭素が地中に封印されてきたものでした。その封印を解いてしまったのが人類だったと言えます。
区画輪伐法
化石燃料を使うようになり、機械が動かせるようになり、産業革命が展開していきました。人類の歴史を振り返りますと、牛馬を使う時代、奴隷を使う時代を経て、機械や装置を使う時代になり、人間性が尊重される時代へと変化していきました。併せて、経済も成長し発展していきました。しかし、経済成長を前提とする社会は、新天地を開拓し続ける社会でもありましたので、やがて新天地が消失することとなり、今日に至っています。
そうした状況を踏まえて、1972年にローマクラブは報告書『成長の限界』を出版しましたが、まさに、その警告が現実のものになろうとしています。

3.2 命題的知識の追求が築いた「文明」

自然界では様々なことが生じており、地震や雷などに対しては、人々の気持ちは、恐れが畏怖や畏敬に変わっていきました。昔はそうした自然現象を神のお告げと思い、占いなどで判断し、決断することもありました。
しかし、15世紀に活版印刷技術が発明され、知識が広く共有されるようになり、17~18世紀になると、ある現象が生じる理由を原理的に説明する「命題的知識」が重視されるようになりました。「命題的知識」とは、論理的に真偽を判断できる知識のことであり、再現性がある現象は、法則として確立されていきました。法則として解明できれば、その原理を活用して様々な装置等を発明・開発することができ、そうした知識の成果が文明を築き発展させていきました。その結果、人々の暮らしは便利になり、豊かになりました。
しかし、やがて、人口の増加に伴いエネルギーが不足してくると人類は化石燃料に依存するようになり、化石燃料に封印されていた炭素が大気中に二酸化炭素となって放出され続け、地球温暖化を招いたと言えます。

3.3 理系から文理融合へ

理系とは、自然科学分野に該当する学問のことですが、法則を探求していく場合は再現性が必須の条件になります。これこれの条件であれば、必ずそうなるという世界です。そうした法則が発見できれば、それを応用した便利な機器を開発することができます。したがって、文明とは、指定された条件を満たしていれば計画通りに事が進むことを前提にしている世界であると言えます。マニュアル通りに実施すれば、あるいは、スイッチを押すだけで、予定していた通りの結果が得られる世界です。故障していなければ、必ずそのようになります。
しかし、自然を相手にする場合は、必ずそのようになるとはかぎりません。なぜなら自然界の現象が完全に解明されていないことに加えて、利己的な遺伝子が生物を操っているとも言える説があるように、生物は相手の行動に応じて刻々と自分の行動も変化させていくからです。駆け引きをする場合もあります。
したがって再現できないことも多々あります。
自然界では絶えず相互作用が生じているからです。そのような性質をもつ自然界の中で営む林業や森林管理では、生態系の中の生物の社会や行動を研究する文系的な学問分野も必要になります。すなわち、森林や自然生態系を対象にする場合は、文理融合の知識が必要になります。

3.4 「動物」と「人間」の違い

「文明」の本質を理解するために、「動物」と「人間」の違いについて再確認をしておきたいと思います。 生物が生きていくためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーの源は太陽です。植物は光合成により太陽エネルギーを直接利用することができますが、動物は植物や他の動物を食べることでエネルギーを獲得しています。
それは人間も同じです。では、動物と人間の違いは何でしょう。私は小学生の時に、その違いは火が使えるかどうかと教えられ、ずっとそのように理解してきましたが、あるとき、それだけでは無いことに気が付きました。
人間は自分が持っているエネルギーを節約する術に長けています。まずは、牛馬を使って人や物を運んだり、農地を耕したりしました。やがて、言葉で命令ができる奴隷を使うようになりました。産業革命によって機械や装置が使えるようになると、奴隷解放が行われ、人間性が尊重される時代へと変化していきました。そうした歴史を振り返りますと、産業革命後の文明の発展とその成果は、高く評価されるべきものです。しかし、敢えて欠点を申し上げれば、それは機械や装置を導入する過程で化石燃料を用い、石炭や石油にずっと依存し続けていることです。そして、地球の温暖化を招いてしまったことです。
「動物」と「人間」の間のもう一つの決定的な違いは、情報獲得手段の違いです。動物も人間も、状況の変化や相手の行動を予測して自分の行動を決定しています。動物は五感から得た情報と経験に基づいて判断していますが、人間の場合は、五感だけでなく、文明の成果であるセンサーを使って取得したデータ、そして通信によって入手できる遠方のデータ、蓄積されている過去のデータ、参考になる類似事例のデータなどを解析して将来を予測して判断しています。デジタルツインを使ってシミュレーションすることも可能になってきました。そして予測に基づいて計画を作成し、組織として、チームとして互いに協力しながら計画を実行していきます。

4.「共生」と「共創」

異種の生物が行動的・生理的な結びつきをもち、一所に生活している状態は「共生」ですが、そこに人間が文明の成果を持ち込み、新しい結びつきを創りあげて一所に生活するのが「共創」です。「共創」とは、あえて皮肉的な言い方をするとすれば、人間が人工的な物に作り替え、人間にとって都合の良い自己流のやり方を人間側の意図だけに基づいて導入して実施しようとするものとも言えます。
区画輪伐法
ここで注意すべきことは、「共創」関係を継続し続けるためには、人間は絶えず文明的な状態や条件を維持し続けなければならないということです。たとえば、都市域に構築した「共創」であれば、電気、ガス、水道をはじめ、通信網や道路網が滞りなく機能していることが大前提になります。しかし、最近は、上下水道など老朽化した社会インフラの更新や修繕が課題になっています。人工物を維持・管理する責任を放棄する行為は、現代文明が内包している問題点の一つです。
私たちの分野において分かり易い例をあげるとすれば、それは里山の管理です。自然環境において裸地は植生遷移にしたがって極相林へ遷移していきますが、植生遷移を人間にとって都合の良い状態に留めて利用してきたのが里山です。里山は人間の都合に合わせて改変され利用されてきた自然です。そういう意味では「共創」の一つの成果です。しかし、放置し続けると里山ではなくなってしまいま す。人為的な利用・管理の停止によって生態系のバランスが崩れて種の絶滅や生息地の縮小が生じることは、生物多様性の第2の危機と呼ばれています。
区画輪伐法

5.人工林問題

5.1 増加し続ける管理不足の人工林

日本は国土の約3分の2が森林であり、人工林は約1000万haもあり国土の約27%を占めています。人工林の大半は、第二次世界大戦後に植林されたものです。第二次世界大戦中の大量伐採等によって荒れた国土の復旧、資源小国の日本において自給可能な木材を確保することが当初の目的でした。燃料革命によって薪炭が使われなくなると、燃材を生産する薪炭林から用材を生産する人工林への転換が始まりました。そして、戦後の高度経済成長期の増大する木材需要を賄うため、天然広葉樹林を針葉樹用材林に転換する「拡大造林」と呼ばれる人工林化が進められました。
しかし、木材輸入の自由化による林業の衰退、少子高齢化、中山間地域の過疎化などの影響による担い手不足により、人工林の多くが管理不足の状態に陥っています。間伐をしないと林内が暗くなり、光が林床に十分に届かなくなるので、下層植生が少なくなります。その結果、雨滴が土壌に直接当たるようになり土壌浸食が始まり、やがて表土が流出していきます。また、形状比が高い、すなわち、樹高(m)を胸高直径(cm)で割って100を掛けた値が大きい、ヒョロヒョロな立木ばかりになり、風雪による共倒れ型のリスクが高い森林になってしまいます。災害に弱い森林の増加は、森林の公益的機能の低下につながります。
区画輪伐法

5.2 林業経営に適さない人工林は育成複層林へ誘導

2019年度よりスタートした「森林経営管理制度」では、林業経営に適さない人工林を、育成複層林へ誘導することが求められています。すなわち、人工林を、皆伐・再造林型の林業経営を続けていく区域と、森林が有する公益的な機能の発揮を主目的として間伐によって針広混交複層林へ誘導していく区域に大きく二分して管理しようとする政策です。
2021年6月に発表された「森林・林業基本計画」では、人工林の約3分の1を、針広混交の育成複層林へ誘導するという方針が示されました。そして、針広混交林化への取り組みは、市町村が主体となって進めるとされています。しかし、どの場所に、どういう種類の広葉樹を植栽するのがよいのかについては、地域や標高、地質、地形等によって大きく異なりますので、具体的なマニュアルが作成されていないことが多いのが実態です。

5.3 同齢単純林、育成単層林が抱える宿命

人工林に関する上述のような問題は日本に限った話ではありません。歴史を振り返ってみますと、林学の歴史の中でも、人工林、とくに「同齢単純林」については、数々の失敗を積み重ねてきました。
ヨーロッパでは、産業革命の頃から、産業界が使用するエネルギー源は、石炭へと大きく転換していきました。そして、産業革命による経済発展に伴い、建築用材や電柱用材等の需要も高まっていきました。用材に適するのは、通直な材であることから、それを効率的に生産するために 針葉樹の一斉造林が始まり、いわゆる「同齢単純林」が造成されま した。
しかし、農業のような発想で始まり、合理的と考えられていた「同齢単純林」の人工林施業には、いくつかの短所がありました。一番の誤算は、「同齢単純林」が大量に造成されたことによる病虫害の大発生でした。当時は、生態学の知識が乏しかったことから、単純化された森林が大面積にわたって存在することが生物多様性の低下を招くとともに、特定の生物の増殖につながり、生態系の不安定化に繋がっていくことについては、まだ良く知られていなかったのです(田中,1996)。 用材林を対象とする森林計画学については、今日では、生態学の知見や品種改良等の成果も取り入れられているとともに、高性能な林業機械の使用を前提とした伐採・搬出の体系が構築されています。また、航空レーザ計測や地上レーザ計測を活用した森林モニタリング技術、森林GISを利用した環境解析や評価、森林ゾーニングなどの手法も用いられています。しかし、そうした先端技術を応用した森林経営ができるのは、特定の条件を満たした立地環境や作業環境、そして、適切な森林管理を継続的に実施できる体制が整っている場合のみです。あえて極端な言い方をすれば、人工的に整備された環境が整っている場合だけです。

5.4 自然との向き合い方、利用の仕方

自然とどの様に向き合い、自然をどのように利用していくかについては、文明の発達によって人類が自然界に及ぼす影響の度合いが大きくなって行く過程の中で様々に議論されてきました。20世紀初頭には、保存か保全かの大論争が展開されました。その後、野生動物の管理も含めて自然を守る土地倫理、生命を関係論的な世界観の中で考えるディープ・エコロジー、地域に根付くことが重要と考えるバイオリージョンなどの考え方が提案されました(田中,2022)。これまで進めてきた文明のあり方が見直され、持続可能な循環型社会を構築する取り組みが模索されています。 6 しかしながら、昨今の世界情勢を見ておりますと前途多難だと思います。まずは、エコロジカル・フットプリントの値を低下させる方向に舵を切るべきと思います。人工林の取り扱いについても、文化と文明の違いを意識して、共生と共創を使い分けることが重要と考えます。

5.5 実生苗と挿し木苗を使い分ける

共生と共創を使い分ける分かり易い例が、実生苗と挿し木苗を上手に使い分けることです。実生苗の人工林であれば、成長に伴い林木に優劣が生じます。ところが挿し木苗の人工林の場合は、遺伝的な形質が同一なので成長に優劣がつきにくく林木が競争をし続け、最終的には共倒れ型の森林になってしまいます。したがって、挿し木苗の人工林では間伐が必須になります。最近はエリートツリーや無花粉スギなどが注目を集めていますが、それらの品種を導入する場合は、最後まで間伐等の手入れをし続ける覚悟が必要です。
以上をまとめますと、自然との共創を目指して、文明の成果である人工物を持ち込んだゾーンでは、人が責任を持って、対応し続ける必要があります。一方、自然との共生を目指すゾーンでは、自然との対話を通して、場所毎に、状況に応じて、自然の摂理に従った適切な対応していかなければなりません。 約1000万haもあり、国土の27%も占める日本の人工林を今後どの様に取り扱っていくかは、文明のあり方を見直すことにもつながる問題です。

6.森林ゾーニング

森林を保全目的や利用目的に応じて区分することは森林ゾーニングと呼ばれています。最近では航空レーザ計測データ等が整備され公表されていますので、森林GISによる高度な空間解析結果に基づいた森林ゾーニングが行われています。
2019年度から始まった「森林経営管理制度」では、まず、市町村が森林所有者に森林経営管理に関する意向調査をし、森林所有者が市町村に森林経営管理を委託した場合は、市町村が集積計画を作成し、意欲と能力がある林業事業体へ再委託する配分計画を作成することになっています。こうした手続きの流れが示すように、まずは人工林を林業経営に適するか否かで区分することが求められています。そして、林業経営に適する人工林については、皆伐・再造林型の林業経営を続けていき、林業経営に適さない人工林は育成複層林へ誘導することになります。
区画輪伐法
経済林か非経済林かの判定は、林道等の整備状況や地形条件で決まりますので、市町村には、航空レーザ計測データを用いて、市町村全域の路網計画を作成し、市町村森林整備計画で公開することが求められています。路網計画が公表され、開設予定時期等が明らかになれば、市町村が作成した配分計画に応募する林業事業体も増えてくると思われます。
区画輪伐法
管理不足の人工林のうち非経済林として評価された森林は、針広混交複層林へ誘導していくのが国の方針ですが、どの様に間伐して、どういう種類の広葉樹を導入するのが良いのかについては、地域や標高によって、さらには場所毎に、立地環境毎に異なりますので、それぞれの地域で針広混交複層林への誘導指針を作成していく必要があります。そうした指針ができあがれば、目標林型マップを作成 し、ゾーニングの基礎資料にすることができます。
これまでの森林ゾーニングでは、森林が持っている各種の公益的な機能の発揮や、災害リスクの評価結果、そして生物多様性の保全なども考慮に入れて、科学的なデータや政策的な目標に基づいて森林をゾーニングしていました。しかし、それは絵に描いた餅のようなものであって、不十分です。なぜなら、実行性の要素が加味されていないからです。上述したように、文明の成果を取り入れた「共創」型の森林経営管理する場合は、最後まで人が責任を持って管理することが必要になります。途中で放棄することは許されません。
森林の育成期間は長期に及び世代を超えて継承していかなければなりませんので、「共創」型の森林経営管理をしようとする場合は、その実行可能性が問われることになります。それなりの覚悟が求められます。繰り返しになりますが、挿し木苗など、特にエリートツリーや無花粉スギ等を導入しようとする場合は注意が必要です。

7.「林業」から「森業」へ

経済林として評価された区域において、市場原理に基づいて、森林を管理し利活用していくのが「林業」であると捉えることにすれば、非経済林において森林を管理していく仕事は、どのように呼ぶのが相応しいでしょうか。ここでは、「森業」と呼ぶことにします。
なお、農林水産省の「地方みらい共創戦略」では、森業(もりぎょう)とは、環境保全や癒しなどの森林の価値を活かした取組と定義しています
。 「森業」は経済的に成り立たないことが多いので、森林環境譲与税等の公的な支援が必要になります。森林が有する公益的な機能を発揮させ、災害や獣害等のリスクを減少させることにより、地域や下流域の安全と安心を守る活動を担うのが、私が考えている「森業」です。
森林経営管理制度で配分できなかった森林は、市町村森林経営管理事業によって管理されることになりますが、そうした仕事を引き受けることも「森業」になります。
地域連携・地域貢献に関わる「森業」の仕事としては、
・ドローン(UAV)データを活用した社会インフラの点検・管理
・ドローン(UAV)データを活用した
災害被災地の状況把握
・災害リスクの高い森林等の現況確認とリスク評価
・獣害対策関連情報の提供
・獣害対策関連事業の受託
電気柵、箱わな等の設置・点検・管理
・ロケットストーブ丸太等の生産と備蓄など災害に対する備え
・環境教育、森林教育の場の提供などが考えられます。
環境林等の維持・管理といった新たな森林ビジネスの創設としては、
・J-クレジット制度の導入
・自然共生サイトへの登録
・ドローン(UAV)データを活用した保持林業木の点検・管理
未利用森林資源を活用した新規ビジネスの展開としては、
・地域性苗木の生産、販売
・林農連携(キノコ栽培など)
・木材チップを活用したバイオマス発電&熱利用
[参考事例]
・西粟倉村バイオマス産業都市構想
・紫波中央駅前エネルギー
ステーション事業などが考えられます。
いずれの「森業」の場合も、「共生」と「共創」を適切に使い分ける事が必要になります。そして、「共生」の場合は、自然が発するシグナルや兆候を受け止めることができる人材を育成する必要があります。「共生」の世界では、マニュアルが作成されていないことも多く、また、マニュアル通りに展開しないことも多いです。ですから、自然が発するシグナルや兆候からその後の展開や推移を予測することができる力を養成することが重要です。生じている現象を、素因、誘因、主因に分けて分 析していく力も重要です。
自然との「共生」と「共創」を適切に使い分ける森林ゾーニングを地域の土地利用計画の中に位置付け、地域の再生可能な資源を持続的に利用する体制を構築し継承していくことが重要と考えます。

8.「施業」と「作業

森林を造成、維持するために行われている人為的な働きかけは「施業」と呼ばれています。「作業」ではありません。「施業」と「作業」の違いについての私なりの解釈は次の通りです。
「文明」の世界では、再現性がありますから、こうすればこうなるという世界です。人為的な働きの結果は、ほぼ予想通りになります。したがって「作業」という言葉が使われます。しかし、相手が自然の場合は、必ずしも予定していた通りになるとは限りません。
自然に対して人為的な働きかけはするのですが、その後の展開は自然任せです。「施業」とは、自然が変化をし始めるように仕向けた働きかけであるとも言えます。恵みを施すのではなく、変化の切っ掛けを施す働きかけであるとも言えます。

9.おわりに

単純同齢の人工林を扱う「林業」は「文明」の世界であって「共創」が主ですが、「森業」は自然任せが基本になりますので、「共生」と「共創」が混在することになり、「施業」が主になります。
「施業」の場合は、その後の展開が自然任せですので、マニュアル通りにはならないこともあり、「観察」と「予測」が重要になります。「文明」の世界では、PDCAサイクルによって改善していきますが、「森業」の世界では、まずは予測(prediction)をしてから改善案を考えることになります。したがって、PPDCAサイクルが必要になります。
区画輪伐法
これからの森林経営管理は、公益的な機能の発揮に関わる社会的な必要性の観点においても、地球温暖化と気候変動に関わる緩和策、適応策などの対策においても、そして、経営管理対象となる森林面積の広さからいっても「森業」が中心になると思います。地域に密着し、地域の現状と潜在力を理解し、「共生」と「共創」を適切に使い分けて、生物資源を循環的に利用する持続可能な社会を構築することができる人材の育成が急務です。森の国の日本から新しい森林文化が発信されていくことを心から願っています。

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