2002年9月に「世界の巨樹をみる会」のメンバーでカナダのクイーン・シャーロット諸島を訪ねました。
クイーン・シャーロット諸島といっても一般にはあまりなじみないところかもしれません。
カナダの西部で太平洋に面したところにあります。緯度は北緯52度から55度で、北海道よりはるか北にあり、サハリンの北部に相当するところです。この諸島には、動物や植物の種類は少ないのですが、固有種が多く、カナダのガラパゴス島ともいわれているそうです。
此の度訪れたのは、この諸島の南部で、ここは国立公園になっております。この南端にはトーテンポールでも知られているニンステインツ(アンソニー島)があり、世界遺産登録にもなっております。この諸島には、このほか深い巨樹の森、ハイダ族がかつて暮していた跡、秋には遡上してくるサケとそれを求めてやってくるクマ、海にはクジラなどがみられ、知る人ぞしるところのようです。
この諸島には無人島が多く、われわれはわずかに点在するロッジを拠点地にして、ほとんどボードで移動しました。そのうち2晩は無人島でキャンプをしました。それだけ手つかずのし全が多く残っているところでした。森林は常緑針葉樹で、主要樹種はレッドシーダー、シトカトウヒ、アラスカヒノキなどです。
森林は、これらの樹種が上木として存在しておりましたが、下木や草本類は極めて少ないものでした。
林床には、おびただしい倒木がみられ、これらの倒木の上や地面には一面厚いコケで覆われておりました。また、多くの樹木の枝幹にはサルオガセが垂れ下がっておりました。
森林の構造は単純であり、原始の森といった感じのものでした(写真1)。
森林内は極めて静寂で神秘的でさえあり、その中におると自然との一体感を感ずるとともに、何か森の精にじっと見守られているように思われることがありました。
此の度参加した人は、写真家、ライター、樹木医、自然愛好家ともいうべき人などで、皆それぞれの立場で接し、十分満足されたようでした。
これから述べることは、そうした立場の一つで巨樹についてはてなと思ったことについてであります。地味かも知れませんが、こうした接し方もあるんだということをご理解いただければと思います。
此の度訪れたところは巨樹が多く、島の中には局所的ではありますが、ha辺り10本以上の巨樹(地上1.3mの幹周が3m以上で日本の巨樹の定義に該当するもの)が生育しているとみられるところもありました。巨樹の生育密度の大変高いところとってもよいものでした。
しかし、ここではてなと思ったことは、これだけ巨樹が多く、巨樹が生育しやすいところかと思われたにもかかわらず、幹周はせいぜい7、8mまでのものがみられても幹周が15mとかそれ以上の超巨大樹がみられないということでした(写真2)。林内に沢山みられる倒木をみてもそのような超巨大なものはみられませんでした。
先住民など人間が伐採利用したのではとも思いましたが、それを裏付けるような伐根をみつけることができませんでした。
レッドシーダーやシトカトウヒなどは、超巨大な樹体になることはできない樹種でしょうか。ある資料によると、これらの樹種の中には1000年も生き、幹周が13mになるものがあるとしております。また、150程あるクイーン・シャーロット諸島内に1000年以上で幹周15m以上のものがあるともいわれております。
しかし、此の度訪れたいくつかの島においては、そのような超巨大樹は全くみられず、もともとそのような巨大なものは存在しにくいところではないかと思われました。
その理由として次のようなことが考えられます。
此の度訪れたこれらの島の森林土壌は非常に浅いようであります。このことは地元の案内者もいっておりました。土壌が浅いということは、そこに生育する樹木の根系が薄いことを意味しております。林内のあちこちに根返りした樹木があり、それらの中には円盤状の根系をつけたまま倒れているものがよくみられました(写真2)。それらの根系をみると樹体のわりには大変薄いものでした。
土壌が浅いため樹木の根系も薄くなり、そのような樹木は生育して樹体が大きくなっていくにつれ、地上の樹体を維持することが次第にむずかしくなり、強風などで倒れてしまうことが多いものと思われます。
このことがこの地域に超巨大樹が存在しない大きな理由だと考えれます。
次に、樹齢についてですが、地元の案内者によると、この地域の樹齢の最大は300年とのことで、予想よりはるかに低いものでした。もし、これが事実ならその理由として次のことが考えられます。
一般に、亜寒帯など緯度の高いところでは生育環境が厳しいため、樹木の成長はそれほど活発でないとされております。
しかし、この地域は雨林地帯ともいわれているように雨が多く、そのこととも関係してか樹木の生長がそれほど悪いものではないようでした。
この諸島の空港内に展示されていたシトカトウヒの円板をみると、26年で50cmほどもありました(写真3)。また、フェリーの発着場に用いられている材の中には年輪幅が5mmほどのものがみられました。
これらは特別なものだとしても、この地域の樹木の成長は決して悪いものではなく、それほど長い年月を要しないで大きな樹体になるものが多いのではないかと思われます。早く大きな樹体になった樹木は根系が薄いため、強い風などで倒れてしまうことが多いのではないかと思われます。
こうしたことが、この地域に超長命な樹木が存在しない大きな理由ではないかと考えます。
以上のことが、此の度訪れた地域に例外はあっても、一般に超巨大樹が存在しない大きな理由と考えられたものです。
しかし、以上述べたことはあくまで推測であります。
この地域は国立公園であり、焚き火のあとすら残してはいけないことになっております。ましてや、たとえ倒木であっても伐って年輪等を調べることなどゆるされない厳しいところでした。従って、肉眼による視察と、地元の案内者による説明をもとにして推測せざるをえないものでした。
しかし、いつか機会があれば、どうしてこのように多くの巨樹が生育しているのか、また、どうしてそうした中で超巨大樹や超長命樹がみられないのかなどについて、しっかりした根拠をもって明らかにできたらと考えております。
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