現在、世界一といわれている巨樹についてみると、樹高では112mのアメリカのセンペルセコイア(トーレストツリー)、幹の太さでは地上1.5mの幹周35.8mのメキシコのメキシコヌマスギ(デル・トゥーレ)、幹の体積では1487立方メートルのアメリカのジャイアントセコイア(シャーマン将軍)とされている。樹齢ではいろいろと言われてきたが、実際に年輪が測定されたものとして最大なものは1957年の測定時に4723年の年輪をもったアメリカのブリッスルコーンパイン(メスーゼラまたはメトセラ)である。
幹の高さ、幹の太さ、幹の体積で世界一とされているこれらの巨樹は見ようと思えばそこへ行って見ることができるものである。しかし、樹齢世界一のブリッスルコーンパイン(メスーゼラ)はアメリカの森林局が保護のため、その具体的な生育場所を公表していない。そのため一般の人はそれを見ることはほとんどできないのである。2000年に「世界の巨樹を見に行く会」でブリッスルコーンパインを見に行ったときも、このメスーゼラは断念し、長寿の木ブリッスルコーンパインの森をそれぞれがそれぞれの目的をもって散策しようというものであった。
今回は、発見者であるシュールマンが並んで写っているメスーゼラの写真(地際から2.3mの高さまで幹)が手には入ったこともあり、前回同様の散策のほかに希望する者はメスーゼラを探索してみようということになったのである。そうはいっても、ここは10万本とも言われるほどのブリッスルコーンパインが生育しており、おおよその見当がついたとしても、写真を片手に1日や2日の探索で見つけだすことは至難のわざと言ってよいものであった。ここのレンジャーはメスーゼラの存在は認めても、そこに行くには何時間かかるというだけで生育場所を教えようとはしなかった。このような状況の中で、皆それぞれ自由に探索をはじめた。
私の場合は、2.3mの幹の写真からできるだけ特徴をとらえ、それをもとに頭の中でイメージしながら探索に入った。予想はしていたものの、確かに困難であり簡単に見つかるものではなかった。
しかし、しばらくしてあまり大きくなく、そしてあまり目立たない木のそばを通りすぎようとしたとき、ハッとし、何かひかれるものを感じた。受けた印象のイメージしていたものと似ていたからであろう。立ち止まって、よくよく観察してみると写真に見られる幹のいくつかの特徴が全く同じか極めてよく似ていた。また、幹には年輪測定のための成長錐の入れたあとがいくつか見られた。
こうしたことから、この木がメスーゼラだと断定した。幾多の困難を乗り越え、5000年近くも生き続けたメスーゼラが目の前にあり、それに触れることのできた感動は言葉では言い表すことのできないものであった。正直なところ、おそらく見つけることはできまいと思っていただけに喜びは大きかった。早速。同行の人達に来てもらい喜びを分かち合った。
木の大きさについては、同行の大野耕一氏に頼み測定してもらった結果、胸高の幹周は2.4m、樹高は約10mであった。日本では巨樹にも入らないほどの小さいものであった。また、ブリッスルコーンパインによく見られるねじれや曲がりも少なかった。周辺には大きさやねじれ状態から見て、メスーゼラを上回るのではないかと思われるものがたくさん存在していた。それほどに目立たないものであった。
メスーゼラの生育場所がわかると確かに訪れる人が多くなり、悪い影響を及ぼすことが多分に心配される。アメリカ森林局が保護のために場所を明らかにしていないことは十分に理解できた。従って、こうした意向を尊重し、現時点では具体的な生育場所にふれることは差し控えることにした。写真については発見者であるシュールマンが既に発表していることから一部は公表してよいのではと考えた。
こうして、この木がいつまでも生き続けることを祈り、他にもっと長命な木の見つかることを期待しながら山を下った。 なお、今回の探索での発見者は小笠原であったが、これは同行の人達の協力のたまものであり心から感謝するものである。
樹木は、この地球上で最も長生きできる生物です。それでも決して無限に生きられる訳ではありません。寿命の長さは基本的には、遺伝によって決まるとしても、それが生育する環境によって大きく影響を受けます。
アメリカのブリッスルコーンパインを例にとってみましょう。
ブリッスルコーンパインの生育しているところは、標高3000m位で低温、強風、乾燥が厳しく、土壌はドロマイトでやせており、生育環境としては極めて悪い条件です。
このような生育環境でのブリッスルコーンパインの樹高は極めて低く、樹形はねじれて奇形となり、そして樹体の一部しか生きてないものが多くみられます。
しかしながら、樹齢の方は3000年以上のものが多く見られ、その中にメトセラ(*)のように樹齢4765年と実際に年輪が測定されたものとしては世界一のものが存在しております。残念ながら、このメトセラは保護のため生育場所が秘密にされており、今回は見ることができませんでした。
ところで、このブリッスルコーンパインは養分や水分が十分あるところでは幹が通直に伸び、樹高も高くなるのですが、寿命の方は1000~1500年止まりとされております。つまり、生育環境が良く、成長が良好である方が寿命が短いというのです。どうして、こういくことがおこるのでしょうか。
このブリッスルコーンパインは、厳しい環境の中では、通常5年くらいしかもたない葉を40年も付け、旱魃などの時にそこから養分を補給したり、また枯死したところを巻き込みの形成などで修復したりして懸命に生きております。我々人間は、体の半分がなくなったらすぐに死んでしまいますが、ブリッスルコーンパインの場合は半分はおろか、ごく一部でも生きることができます。
このような状態ですので、この木の成長は極めて遅々としており、年輪巾が1cm大きくなるのに50年を要するとされております。この遅い成長が結果として長生きにつながっているものと考えられます。
こうしたことは、この木だけのことではなく、高山地帯などの植物にも見られ、長生きしている例があります。
なお、このブリッスルコーンパインについては、次のような考え方もみられます。
厳しい生育環境下では子孫を残す確立は極めて低く、そのため長生きしてその機会を増やす必要があるため、長生きの術を身につけたというものです。そして、長生きするために無駄なエネルギーを使わないよう機能を低下させ、多くの幹の成長をやめ、つまりは、自ら枯らし、最低限の部分にだけ水分や養分を供給するという考え方であります。
ブリッスルコーンパインのように悪い環境に耐え、工夫しながら懸命に生きている姿を見ると、生命のたくましさ、したたかさを知るとともに、生命の神秘さを実感します。そして、人間の命の尊さ、大事さを教えられる思いがします。