ニュージーランドは南半球に位置し、7,000~8,000万年前にゴンドワナ大陸の分裂によってできたものである。このたび訪れたのは北島で、その北部は亜熱帯気候に属している。この地方にはカウリを主要樹種とする森林があり、カウリのほかにはリム、トタラ、ミロ、カヒカテアなどの高木や低木、つる性植物、シダなどが密生している。太古の森林を思わせるものがあり、そのためか映画で恐竜の登場する森林として利用されたこともあったという。
かつて、大面積あったこのような森林も人間の伐採により著しく減少し、現在はかつての4%までになってしまっている。
このようにわずかに残された森林の中に、カウリの巨樹、老樹が見られる。カウリはナンヨウスギ科に属し、学名はAgathis australisである。
カウリの起源は1億9,000万~1億3,500万年前のジュラ紀にまでさかのぼるとされている。カウリは巨大化、長命化する特性があり、樹齢1,000年を超えるものが少なくないという。これまでで最も巨大なものは幹周が25mで樹齢が2,000年以上のものであったが、1971年の山火事で枯死してしまっている。
この木はワイポウア森林保護区にあり、カウリの中のみならずニュージーランドで最も有名なものである(写真①)。
樹高51.5m、幹周13.8m、樹齢2,000年である。
幹の先端は折れているが、通直、完満で樹皮は滑らかである。王者の風格を持つとともに何か神秘さを感じさせるものがある。
こうしたこともあってか、先住民族であるマウリ族の中の宇宙観というべき話の中で、この「森の神」が主要な役割を果たしている。
それは、昼と夜、太陽と月などのなかった遠い昔に、空である父と大地である母が抱き合ったままであったので、森の神などの子どもたちは父と母の間に挟まれて光も自由もなかった。そこで父と母を引き離すことになり、そのことによって光、空間、大気が得られ、そして生命活動も活発になったというものである。また、この「森の神」は生命を与えることができ、鳥、虫などすべての生き物は「森の神」の子どもであるとされている。
「森の父」もワイポア森林保護区にあり、「森の神」に次いで有名なものである(写真②)。樹高30m、幹周16m、樹齢2,000年である。
幹の太さは「森の神」より大きいが、樹高はかなり低く、全体としてずんぐりとした樹形をしている。
この木はコロマンデル半島にあり、樹高41m、幹周9m、樹齢1,200年である(写真③)。幹は名前が示しているように、幹の上部が四角形に近い形状をしている。なぜこのような形状になったのかは不明であるという。
この木もコロマンデル半島にあり、もともと2本の木であったものが成長とともに癒合したもので、いわゆる合体木である(写真④)。樹高、幹周については不明であるが、樹齢は600~800年である。
これらのほかにもフォーシスターカウリやツウエンカウリなど有名なものがいくつか見られる。
カウリの材は極めて良質で、これまで住宅、家具、橋、船、枕木、彫刻など多くの分野で利用されてきた。
そのために大量に伐採され、特にヨーロッパ人による伐採が激しかったため、今日のような激減を招いたという。現在は伐採に許可が必要となっている。
カウリはカウリガムをつくることでもよく知られている。カウリガムとはカウリから流れ出る樹脂のことである。このカウリガムはニュージーランドの琥珀(こはく)ともいわれ、装飾品、彫刻、顔料、チューインガムその他多くの分野で利用されてきた。
なお、このカウリガムには先住民族であるマウリ族に「カウリとクジラ」という伝承が見られる。
それは、地上で最も偉大な生き物であるカウリと海で最も偉大なクジラとの友情の話で、最後にお互いの肌を交換し、そのことによってカウリは灰色の肌となり、そしてクジラが油分の多いようにカウリも樹脂(カウリガム)をたくさん出すことができるようになったというものである。
ニュージーランドではカウリの
ほかにも、カヒカテア、ボクツカヤ、
リム、トタラなどにも巨樹、老樹が
見られる。例えば、カヒカテアは
ニュージーランドで最も樹高の高
くなる木として知られ、最大のもの
は65mにも達するとされている。
今回見ることのできたコロマンデル
半島のカヒカテアは樹高60m、
樹齢400年のものであった。