中国は世界文明の発祥地の一つであり、長い歴史と輝かしい文化をつくってきた。現在の中国には、そうしたこととかかわりをもつ名山、公園、仏閣、廊等が多く存在し、そのようなところに巨樹、老樹が残されていることが多い。巨樹、老樹の樹種としては、コノテガシワ、イブキ、メタセコイア、油松などが多いという。そうしたものの中で、ごく一部であるがみてみると次のようなものである。
陜西省黄陵県橋山の軒轅皇帝陵にあり「世界のコノテガシワの父」と呼ばれているものである(写真278)。軒轅皇帝が植えたもので、樹齢は五千年以上とされている。
このコノテガシワは国の文化財であり、中国民族の精神のシンボルとも言われている。なお、この轅軒皇帝陵には植栽された樹齢千年以上のコノテガシワが一万本以上あるとされている。これがそうであるならば、極めてめずらしく、かつ貴重なものと言うことができる。
山東省泰安県泰山の岱廊の漢柏院にある樹齢二千百年のコノテガシワである。漢武帝劉徹が泰山を封じた時に植えたものとされている。
山東省呂県の浮来山定林寺にある樹齢三千年以上のイチョウである。魯国の王魯公と呂国の王呂公がこの木の下で仲直りをしたという言い伝えがある。
山東省泰安県泰山の普照寺にある樹齢千五百年以上の油松(マンシュウクロマツ)である(写真282)。側に篩月亭があり、ここで松を鑑賞し月見をするところであるとされている。
山東省泰安県泰山の五松亭の上にあり、樹齢二千年以上の油松で、泰の松とも呼ばれている。この松は秦の始皇帝ともかかわりをもつものとされている。
北京市の北海団城の承光殿にある樹齢八百年以上の油松であるこの松は金代に植えられたものとされている。
この樹のすぐ近くに白抱将軍と呼ばれるシロマツがあるが樹齢は不明である。
広西省陽朔市にあり、有名な桂林からの河下りの船着場の近くにみられる。隋代に植えられたとされ、樹齢は千三百年である。
山東省青島市太清宮にあり、龍の頭に似ていることから龍頭楡と呼ばれ、樹齢は千百年以上とされている。
山東省労山の霊岩寺にみられる千年以上のマユミである。オスとメスの二本からなるものとされているものである。
中国の巨樹、老樹の多くは、名山、公園、仏閣、廊等にみられる。
同じ樹種またはそれに近い樹種でも、我国のものにくらべて樹齢のかなり高いものが時々みとめられる。例えば五千年以上のコノテガシワ、三千年以上のイチョウ、二千年以上の松、千三百年以上のガジュマル(写真286)、千百年以上のニレなどがそうである。
中国の巨樹、老樹にも、それにまつわる伝説、伝承が多い。我国に多く認められるようなしめ縄をはっている神木はみとめられない。しかし「任邨の神」のように神が宿っていると言われている神木もあるという。なお、台湾では赤い衣をまいた老樹は神木であり、あがめまつられているという。
中国の巨樹、老樹には観光資源になっているものもあり、北京市の郊外にある「石上柏」などもその一つで、我国の盛岡市にある石割桜(写真67)のように岩石を割ったような状態で生育しているコノテガシワである。中国でも、巨樹、老樹を貴重な文化財として保護しようとしているようだ。