ハン |
榛の木馬場 |
回向院を、駒止橋ばしを、横網を、割り下水を、榛の木馬場を、お竹倉の大溝を愛した。 |
大工 |
穴蔵大工 |
殊に彼の家のまわりは穴蔵大工だの駄菓子屋だの古道具屋だのばかりだった。 |
並み木 |
並み木 |
並み木もない本所の町々はいつも砂埃りにまみれていた |
ヤナギ |
割り下水の柳 |
三十年前の本所は割り下水の柳を、回向院の広場を、お竹倉の雑木林を、 |
雑木林 |
雑木林 |
回向院の広場を、お竹倉の雑木林を、 |
樹木 |
樹木 |
家々も樹木も往来も妙に見すぼらしい町々だった。 |
杭 |
百本 |
けれどもこの朝の百本杭は――この一枚の風景画は同時に又本所の町々の投げた精神的陰影の全部だった |
杭 |
乱杭 |
磯臭い水草や五味のからんだ乱杭の間に漂っていた。 |
杭 |
百本杭 |
彼は未だにありありとこの朝の百本杭を覚えている |
杭 |
百本杭 |
百本杭は大川の河岸でも特に釣り師の多い場所だった |
杭 |
百本杭 |
父と彼とはいつものように百本杭へ散歩に行った。 |
大工 |
穴蔵大工 |
穴蔵大工の女の子に固い乳房を吸って貰った。 |
イチョウ |
大銀杏 |
この恐怖や逡巡は回向院の大銀杏へ登る時にも、彼等の一人と喧嘩をする時にもやはり彼を襲来した。 |
イチョウ |
大銀杏 |
或時は回向院の大銀杏(おおいちょう)へ梯子もかけずに登ることだった。 |
梯子 |
梯子 |
或時は回向院の大銀杏(おおいちょう)へ梯子もかけずに登ることだった。 |
棹 |
棹 |
或時はお竹倉の大溝を棹も使わずに飛ぶことだった。 |
アンズ |
杏の枝 |
花を盛った杏の枝の下の柵によった彼を見上げている。 |
柵 |
柵 |
花を盛った杏の枝の下の柵によった彼を見上げている。 |
柵 |
柵 |
殊にやっと柵の上へ制服の胸をのしかけたまま、 |
枝 |
杏の枝 |
花を盛った杏の枝の下の柵によった彼を見上げている。 |
ニス |
ニス |
信輔は未だにニスの臭い彼の机を覚えている。 |
机 |
机 |
信輔は未だにニスの臭い彼の机を覚えている。 |
抽斗 |
抽斗 |
銀色に光った抽斗の金具も一見小綺麗こぎれいに出来上っていた。 |
抽斗 |
抽斗 |
実は羅紗も薄いし、抽斗も素直にあいたことはなかった。 |
椅子 |
肘かけ椅子 |
成程二脚の肘かけ椅子は黒ずんだ縁側に並んでいた。 |
縁側 |
縁側 |
成程二脚の肘かけ椅子は黒ずんだ縁側に並んでいた。 |
ポプラ |
ポプラア |
丈の高いポプラアの戦そよ)ぎの中にこう言う囚徒の経験する精神的苦痛を経験した。 |
ポプラ |
ポプラア |
如何に又グラウンドのポプラアは憂欝な色に茂っていたであろう。 |
バラ |
薔薇色 |
彼を苦しめた中学の校舎は寧ろ美しい薔薇色いろをした薄明りの中に横たわっている。 |
ポプラ |
ポプラア |
尤もグラウンドのポプラアだけは不相変欝々(あいかわらずうつうつ)と茂った梢に寂しい風の音を宿しながら。…… |
木剣 |
梁 |
景陽岡の大虎や菜園子張青の梁に吊った人間の腿ももを想像した。 |
木剣 |
木剣 |
木剣を提げ、干し菜をぶら下げた裏庭に「水滸伝」中の人物と、 |
木剣 |
木剣 |
木剣は勿論「水滸伝」以来二度と彼の手に取られなかった。 |