大阪・関西万博の主要施設の費用を見ると、日本館の総費用は約360億円、大屋根リングの建設費は約350億円とされており、金額だけを見るとほぼ同じ規模です。しかし社会的な影響という点では、大屋根リングの存在感は日本館をはるかに上回っているといえるでしょう。
大屋根リングは会場全体を取り囲む巨大な木造建築で、全周約2km(正確には2025m) 、建築面積約6万㎡、木材使用量約2万7千㎥という世界最大級の木造建築です。構造には日本のスギやヒノキなどの国産材が中心に使用され、伝統的な木造技術と現代の構造技術を融合させた大規模木造建築として注目を集めました。柱や梁が連続するリング状の構造は、日本の木造建築が持つ空間の柔らかさとスケールの大きさを同時に体験できる建築となっています。
万博の空撮写真やテレビ報道、新聞記事などを見ると、多くの場面でこのリングが登場します。会場を俯瞰したとき、最も印象的に見える建築がこのリングであり、まさに「万博の象徴」として広く認識される存在となりました。来場者にとっても、巨大な木造の回廊の下を歩く体験は非常に印象的で、「万博で一番記憶に残った建築」として語られることも少なくありません。
建設が計画された当初は、「350億円は高すぎる」「会期後に解体するのは無駄ではないか」といった批判も少なくありませんでした。特にSNSでは「税金の無駄遣い」といった意見が広く拡散されました。また、「リングはすべて外国産の木材でつくられている」「日本の木は使われていない」といった誤った情報まで流れるなど、さまざまな議論を呼びました。
しかし実際には、リングには日本のスギやヒノキなどの国産材が大量に使用されており、日本の森林資源や木材利用を象徴する建築でもあります。巨大な木造構造物としてこれほどの規模で国産材が使われる例は世界的にも珍しく、日本の木造建築技術や木材文化を世界に示す意味を持っています。
>完成したリングは、来場者にとって単なる建築物ではなく、会場を巡るための重要な空間となりました。リングの下は日陰となり、暑い季節でも歩きやすい快適な通路となっています。また、ところどころに休憩スペースが設けられ、多くの来場者が木の柱や梁に囲まれた空間で休む姿が見られます。巨大な木造空間の中を歩く体験は、都市のコンクリート建築ではなかなか味わうことのできない、木ならではの温かみとスケール感を感じさせるものです。
さらに、リングの上部は展望デッキとしても利用され、そこから会場全体を見渡すことができます。木造の回廊の上から万博会場を眺めるという体験は、多くの来場者にとって印象的なものとなりました。巨大建築でありながら圧迫感が少なく、自然素材である木材の柔らかさが空間の雰囲気を和らげている点も特徴的です。
私自身にとっても、このリングは特別な意味を持っています。私は1970年の大阪万博のとき、「お祭り広場」で働いていました。当時の万博では、お祭り広場の大屋根が万博の象徴的な建築でした。万博といえば「お祭り広場」と言われるほどで、当時は太陽の塔よりも人気があったともNHKの歴史探偵でも言われています。
その意味で、2025年の万博で巨大な屋根構造が再び象徴的な存在となったことは非常に興味深いことです。1970年の万博では、木材は主に海外パビリオンの建材として使われる程度でした。カナダ政府館、ブリテッシュコロンビア館、ワシントン州館、フィリピン館、タンザニア館、ニュージランド館その他などでは自国の木材が使われましたが、日本の会場デザインの中心に木造が据えられることはありませんでした。
しかし2025年の万博では、大屋根リングという巨大な木造建築が会場計画の中心となりました。これは、木材が単なる建築材料ではなく、環境や文化を象徴する素材として再評価されていることを示していると言えるでしょう。脱炭素社会への関心が高まる中で、再生可能な資源である木材の価値が改めて注目されていることも背景にあります。
結果として、大屋根リングは費用の議論を超えて「万博の象徴」として強い印象を残す建築となりました。そして同時に、日本の木材利用や木造建築技術を世界に示す象徴的な存在にもなったと言えるでしょう。
1970年万博の「お祭り広場の大屋根」と、2025年万博の「大屋根リング」。
この二つの巨大屋根建築は、それぞれの時代の技術と価値観を象徴する建築として、万博の歴史の中に刻まれていくことになるでしょう。
大阪・関西万博の大屋根リングは、全周約2km、木材使用量約2万7千㎥という世界最大級の木造建築として、万博会場の象徴的存在となりました。建設費をめぐっては多くの議論もありましたが、完成したリングは来場者に快適な回遊空間と印象的な景観を提供し、万博の記憶を形づくる建築となっています。
1970年の大阪万博では丹下健三設計の「お祭り広場の大屋根」が象徴的な建築でしたが、2025年の万博では巨大な木造リングがその役割を担うことになりました。これは、木材が単なる建築材料ではなく、環境や文化を象徴する素材として再び注目されていることを示しています。
巨大な木造建築としての大屋根リングは、日本の森林資源と木造技術の可能性を世界に示した建築でもあります。そして万博の歴史を振り返ったとき、1970年の大屋根と並び、2025年の万博を象徴する建築として長く語り継がれる存在になることでしょう。