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木材流通

第10章 時代の流れを見る
60年代はデザインの時代、感覚の時代であり、木材業界にとっては連合の時代である

豊かなことは、自然に近ずくことだ

豊かさについて考えてみると、これまた時代の変化とともに大きく変わってきていることに気付かされます。

 戦後二〇~三〇年代は、とにかく腹一杯食べることが豊かさであったのが、それが過ぎると今度は、ものが沢山あることが豊かさであるということで、どんどんと何でも買い込むように変わってきた。いまから思ってもおかしいのですが、三重高農同級生のクラス会で一度アルバムを作ろうではないかということになってアルバムを作ったところ、三〇年代のおしまい頃の写真は、当時は自動車を持っていることが"リッチ"であることの標本みたいに思われていたからでしょう、皆、自動車をバックにして写しているのです。それから一〇年ほどたって二回目のアルバムを作った時には、その当時は家を持っていることが"幸せ"のバロメーターであった時代だったからでしょう、皆、家をバックにして写しているのです。そういう時代があってさらに消費は美徳だ、大きいことはいいことだというような時代が二~三年は続いて――その考えは二~三年でなくなったけれども――、背景にある経済成長ベース中心、能率先行というもので豊かさがとらえられてきた時代が久しくつづきましたが、昭和五〇年代に入ってからはその反省に立って、豊かさというものは物質文明だけでは得られない、われわれが破壊してきた自然が大事である、豊かなこと幸福は自然の中にあるというように変わってきた。林業や木材産業とのかかわりからいうと、秋山前林野庁長官が提唱した、森林浴という言葉も、その転換点に一つの大きな拍車をかけたと思います。森林浴というのは一つの表現にすぎなかったとしても、その言葉の中に、自然と接することによって、街では得られない、物質文明では得られない精神の安定が得られるということを皆が感じるようになったわけです。

 私が昭和二九年にアメリカへ行った時にアメリカ人は、まず自分の家へ案内してくれました。それから一〇年くらいして行った時には、ヨットへ案内してくれました。その次に行った時には、大工仕事のできる自分の仕事場に案内してくれました。「わしはこの納屋を自分で作ったんや」とか、「この風呂の新設を自分でしたんや」とか、それを案内してくれる。と言うことは、初めは家であり、次はヨットであったものが、こんどは自分の手づくりで作ったものに、豊かさが変わってきたということです。機械で作ったのではなくて、手作業で自分が作ったもの、それが人間的な、自然的な豊かさへつながっているわけです。

 したがって、最近、いたる所で「クラフト展」や「伝統工芸展」が開催されているのも偶然ではありません。土のものもあれば、木のものもあれば、鉄のもの、繊維のものもあるけれど、どれも手作業の作品が展示されている。いままででしたら、民芸展ということだったでしょう。民芸もクラフトも手作りという点では共通していますが、民芸は昔からの一般大衆が使っていたものの中から美を求めることが原点になっているのに対して、クラフトは現代感覚が原点になっていて、その原点の手づくりであるというクラフト展が、引っ張りダコのような状態で盛んに開催されています。木だけのクラフト展というのはまだどこでもやっていないから、大阪の木材普及センターでは百貨店と組んで昭和六〇年に第一回木質クラフト展をやろうと計画していますけれども、そういうことが百貨店主催で、場所代は無料=百貨店の負担で出来るほど、一般大衆は興味を示してきている。自然に近ずくことが豊かなことだというようになってきているのです。もう一点あげると、ここ二~三年の間に、木に関する本("木づくりの世界にやすらぎを求めて"というような、ウッディライフといったような本です。)が次々とたくさん出ています。われわれが気が付いて買いに行っても、もう売り切れで絶版になっている。古本屋さんに頼んでも、なかなか手に入り難い。それは買った人が離さないからではないか。と言うことは、それだけ一般大衆の木に対する関心が高いということの表われではないかと思います。

 人間に一番近いものと、人間に一番遠いものとを分類してみたときに、われわれはだんだん人間に近いものを大事にするようになってきている、というのが小原二郎先生の持論ですけれど、それはまさに言いかえると、豊かなことは自然に近いことである、ということになろうかと思うのです。

 このように一般大衆の感覚が木材の方へザアーッと大変ないきおいで流れてきていることを、木材業界はとらえなければならない。私たちの方へと水が流れてきているのに、流れの違うアサッテの方を向いているようなことではならない。折角、機会がきているのですから、その前髪をムンズとつかんで、引き寄せなければならないと思います。

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