それから、「見つけた時に草を引け」という昔からの諺は、非常に大切ではないでしょうか。
私なども、たまに故郷の家に帰ってみると、庭に雑草が生えしげっていて、どうしょうもない状態になっている。ところが、常時人が住んでいる家の庭は、女子供だけの家の庭であったとしても、全くといってよいほど雑草ははびこらないわけです。というのも、毎日、毎朝、見つけたときにパッ草を引くからです。
やはり、見つけた時に草を引くということが大事であって、いま官公庁関係で労務問題で悩んでいる大きな原因は、見つけた時に草を引いてこなかったからだと思います。従来は午後五時に仕事を済ませて、それから荷物を片付け、お風呂に行って帰っていた者が、荷物や道具を片付けるのも仕事のうちだから五時までに片付けようやということになり、次には疲れを治すのも仕事のうちだから五時までにお風呂にも入っておこうということになり、さらには、服装を着替えるのも仕事のうちだからそれも五時までに済ましておこうということになり、職場の中に草がだんだん伸びてきていることに麻痺してしまって、最終的には午後五時までに荷物も片付け、風呂にも行って、洋服も着替えて帰ればいいというところまでエスカレートしてくる。さらにエスカレートすると、「家に着くのが五時であったらいいんや」と、五時十分前には帰ろうかというところまで行ってしまいます。こうしたことは、民間の企業ではほとんど考えられないことですが、民間の企業であっても、帰りの出勤簿にタイムカードで時間を入れるのに、現場から上がってきた時にタイムカードを押す者もあれば、服を着替えて帰宅する時に押す者もいるということだってあるわけですから、やはり「見つけた時に草を引け」ということは大事なことではないでしょうか。しかも、こうしたことは、ゆるくすることは容易であっても、それを元にきつく戻すことは並大抵のことではできません。人事問題でれば、先ず元に戻すことは不可能に近い。だから、一つでもゆるまったところがあれば、その草をパッと引いておかなければならないのです。
学校の試験であるならば、一年間に中学校で六回、高等学校で五回、大学で二回ということで、その時だけパスすればいいということですが、人生は毎日が試験であって、まとめて勉強をすればいいということではないわけです。また、相撲の世界では、九勝六敗といったらよほど成績がよかったということですけれど、世の中の仕事とか商売の成果というものは、一四勝一敗でも駄目なんであって、ともかく一五勝零敗でなければいかんというところに厳しさがあるわけです。厳しさのないところに一四勝一敗が生じたり、一三勝二敗が生じたりする。いわゆる官庁関係とか、親方日の丸であるとか、大会社だからとかいう気持が一敗、二敗を生じさせるのではないでしょうか。しかし、中小企業の場合には、一四勝一敗では、もう倒産してしまうわけです。一五勝零敗でなければならないというところに、中小企業の厳しい状況があるわけで、それ故に規模も大きくできないという逆の面からの問題もあるわけですけれど、そこはここでは触れないとして、「見つけた時に草を引く」態度が常に要求されるわけです。