昔から、物事の機会というものには、前に髪があって後ろに髪の毛のないものだ、だから前からきた時にその前髪をパッとつかまないと機会はとらえられない、誰か他人がやっているのを見て、「そやそや、これをやらなあいかん」と思って、追いかけて髪の毛をつかもうとしても、機会のうしろはツルツルでつかまえどころがないことを言います。常に気力を充実して機会のくるのをじっと待っている、研究を続けている人にしてはじめて、機会という幸運の女神をとらえることができるものであるというわけです。私は、現在のように経済テンポの早い時はとくに、そういう心構えが必要なのではないかと思います。ちょうどカワセミがじっと体力をつけておいて、良い時に魚が来たならばパッと飛びついて魚を獲るように、瞬間的な機会のとらえ方というものが必要とされます。
わが木材業界の中でも、「あの話は、前にわしの所へも来たんやけれども……」と、よその店がパテントをつかまえてやっている商売を、あとからうらやましげに話をする人もいるし、「わしがやろうと思ったら、向こうへ行ってしまった」と不満を言う人もいるというように、いろいろあるわけですが、果物が熟して木から落ちるところにちょうどいたというのは偶然タイミングが合ったということであって、充実した心で待ってこそとらえ得るのが機会というものなのです。機会というものは、そうしょっちゅうあるものではないのであって、充実した心で待っている、つまり、常に何かを考えさがし求めていてこそ、新聞の隅に一寸書いてあったことでも商売を飛躍させるヒントにし得るわけですから、経営を担当する者は、常に機会の前髪をつかむ心構えが必要とされましょう。