一般大衆需要者の変化を的確に把握すること、この必要性については改めて述べるまでもありません。いま一般大衆は何を求め、どのような方向に向かっているのか――と言うことについては、本書の第一〇章で詳述しますが、過去の姿をみてきますと、その時に一番大量にあるものを使うことはナウくない、少ないものを使うことがナウいと、一般には思われ勝ちですけれども、現実には、その時に一番大量にあるものを使うことがナウいことであったのです。 戦前の日本にはものすごく木材が大量にあったから、木を使う人がいい人で、神社仏閣もすべて木で建てられていました。昭和四〇年代になると、鉄と石油製品が大量になってきて、鉄筋の住宅やプラスチックを沢山使ったのが立派な家だということになってきました。こんどは、木材が国内からふんだんに供給されるという時代になってきたので、木のことを知らない者はバカ、木を使わない者はバカ、木で作った物を持っていない者はナウくない、という時代に変化してきています。
大阪で木材利用普及研修センターを建設します。それについて設計コンペを行いました。設計コンペをすれば、応募する人は立派な設計者だと評価されるために木のことを勉強することになる、即、木材の普及につながるということで、設計コンペを実施したわけです。私はこの設計コンペの応募状況によって、木への関心の度合が判断できると考えていたのですが、実際にふたを開けてみたら、五〇件の応募があり、この設計に関与した人として登録された人は九九名に達しました。この数字、その内容の充実度を通じて、一般の建築屋さんがいかに木材に関心を持っているかがわかります。おそらく応募者の皆さんは、夏休み返上でコンペの設計図を引かれたに違いありません。大阪府の建築指導課には木造の建物に対する質問が数多くきたと言っていました。昭和五九年に大阪で設計コンペをやったように、昭和六〇年にはまたどこかで同じく設計コンペを行うことになるでしょうが、それぞれの応募状況は、建築業界そして一般大衆がどのように木の方へ傾いてきているかを知ることの一つのバロメーターになります。今回の五〇件という応募数字は、時代が木の方へ傾いていることを明確に示していると言えましょう。このことを木材業界の私たちは知らなくてはなりません。
需要者の木材に対する要求の変化を常時つかまえていたならば、その変化によって、「これからどういう材が動くようになるか」を読み取ることが可能になります。ある人は、「不景気になると白い木が売れるようになるんや。だから今年はナラがよう売れるんや、去年から価格は倍にはなっている」とか、「景気がよくなったら茶色の木がよく売れる。ローズウッドとか、桜であるとか、民芸調の木材がよく出るようになる」とか言います。なぜ不景気だと白い色であり、好景気だと茶色であるのか、その解明を科学的にしてみよと言われても出来ませんけれど、需要の流れというものにはそういうものがある、と言うことだけは確かです。木材を業としている私たちは、こうした需要の流れの変化を先取りしてつかまなければ、流れから取り残されてしまうでしょう。
情報管理がいかに大事であるか、一日としておろそかにしているわけに行かないものであるか、理解していただけるでありましょう。