ところで、貸倒れによる損失が発生した時、その損失を取りもどすには、どれだけの営業努力が必要なのか。貸倒れや不良売掛金防止がいかに重要か知るためにも、ここで「貸倒れによる損失」について考えてみましょう((株)田辺経営発行の『実践着眼』より)。
≪例題≫ K社は年商一四億円の製品卸売業です。取引先の倒産によって、七〇〇万円の貸し倒れが発生しました。営業マンのA君は三ヵ月間で七五〇万円の増販を達成し、これで貸し倒れの損失を取りもどせたと思った。果たしてそうだろうか。 K社の粗利益率は二〇%、経常利益率は三%、売上債権回転率は五回、従業員は四〇人です。 ≪展開≫ 他の営業マンの意見は次のとおりでした。なお、K社の損益計算(概略)は、次のようになっています。売上高 一、四〇〇(百万円) 売上原価 一、一二〇 売上総利益(粗利益) 二八〇 …… …… 経常利益 四二 貸倒れ損益 七 ……
(1)B君は、七〇〇万円の売上原価五六〇万円を増販すれば、損失 が取りもどせると言いました。 (2)C君は、七〇〇万円の粗利益を得るために必要な売上げ三、 五〇〇万円をばん回しなければならないと言います。 700万円÷20%(粗利益率)=3,500万円 これはK社の従業員一人当たり年間売上高と同額です。 140,000万円÷40人=3,500万円 一人の従業員が一年間にかせいだ粗利益がゼロになったという意味 です。 (3)D君は、七〇〇万円の経常利益を獲得するのに必要な二億三、 三〇〇万円の売上げを達成しなければならない、と言います。 700万円÷3%(経常利益率)≒23,300万円 これは、K社の二ヵ月分の売上げに相当します。 140,000万円×2/12≒23,300万円 すなわち、全社員が二ヵ月間ただ働きしたと同じ損失だ、というこ とになります。 この売り上げを獲得するには、従業員一人当たり年間五八三万円の 売上げが必要です。 (4)E君は、七〇〇万円に対する金利一一万円も損失として考える べきだと言います。 700万円×8%÷5(売上債権回転率)≒11万円
≪着眼≫ (1)貸倒れ損失は、D君の言うように、経常利益からマイナスされる べきだと考えるべきです。五六〇万円の原価の商品を、販売量や一般 管理費を投入して得た成果が七〇〇万円なのです。 (2)貸倒れによる損失が何ヵ月の売り上げに相当するか、また従業 員一人当たりいくらの負担になるのかを常に考えておくことが必要で す。 (3)金利負担がいくらかと考えることは、営業マンにとって不可欠 な条件です(この例では、計算単純化のため除外しました)。