ここで、商流の失敗例を一つ紹介しましょう。
ある有数な商社が、一度製品問屋に進出してみようということで、製品問屋業を始めたことがあります。その商社は、一船一万?の製品を入れ、その原価は?当たり三万円についた。普通、商社であれば?当たり千円ぐらい口銭を貰っておけばよいのだけれど、小売もやって、いろいろ経費がかかるので、?当たり三万三千円で売るということにした。ところで、一万?の製品の中には、無節や上下節もあれば、小節もあれば、一等品もあれば、ダンネージにしかならない不良材もあります。にもかかわらず、その時に、込みで全部を?当たり三万三千円で売ろうというのが商社の発想です。小売屋さんに「このバンドル(一束)みんな三万三千円だよ」と言って売った。バンドルの中には、よいものと悪いものとが混って入っている。買う小売屋さんは克明にそれを見て、いいものが沢山入っているバンドルから先にどんどん買ってゆくわけです。悪い製品が中に沢山入っているバンドルだけが残った。最初の半年目の決算の時には、そのことがもう一つよく分からなかった。一年目に決算をした時に、「在庫のものと帳面在庫との金額と数は合っているのだけれど、一寸おかしいのではないかなあ、古い船の在庫が残っている」ということに気がついて、一年半目に、「今度は徹底して在庫を調べてみようではないか」ということで調べてみたら、原価三万円の製品を仕入れたにもかかわらず、二万円でも売れないような二等品とかダンネージのようなものばかりが残っていて、あとで決算したら大損していたということがあります。
これは、在庫管理の失敗です。あるいは、価格設定の失敗ということもできましょう。いいものは四万円にし、悪いものは二万円にし、平均して三万三千円になるように価格設定をしておけば、そういう失敗をすることはなかったでしょう。在庫を管理する担当者が、「これでは、いいものだけ抜かれていきまっせ」というような話を上司にしておけば、そういう失敗はないわけですが、商社的発想からすれば、そんなことには考えが及ばないことだったということです。このように、在庫管理というのは、単に帳簿上での数字の記載のみで解決するものではありません。